出来上がったばかりの絵をかかえて、私は走った。


旧館の廊下を駆け抜けて、靴箱まで全速力で、そして玄関から飛び出した。

目指すは、グラウンド。


今日もはしっこで黙々ととびつづけている、その背中。



「――彼方くん!」


その名前を呼んだら、いつもよりもずっとずっと大きな声が出て、自分でもびっくりした。


彼方くんは目をまんまるにして私を見ている。


私は息を整えながら近づいて、声をかけた。



「……あのね。コンクールの絵が、できたから。だから、見せに来たの」


ぱちぱちと瞬きをしている彼方くんが、少し可愛い。


どうしてわざわざここまで見せに来たんだ、と思っているのだろう。


私は彼方くんの腕を引いて、あまり人のいない場所へと連れていった。

そして、裏返しにしていたキャンバスをひっくり返して、彼に見せた。



真っ青な空と、真っ白なバーと、それを軽やかに跳び越える男の子。

その背中にはうっすらと翼が生えていて、

その翼から離れた無数の羽根が、真っ白な羽根が、

果てしなく澄みきった青空へと吸い込まれていく。


「……すごい」


彼方くんが呆然としたように声をあげた。