そんな覚悟をさせていたなんて。


「……ごめんね、遥」


思わずつぶやくと、遥がにこっと笑った。


「謝らないで」


力強い言葉に、私は顔をあげる。


「忘れないでね。私にとって遠子は、誰にも代えがたい存在だから」


「え……?」


思いもよらないことを言われて、私は目を丸くした。


「遠子は、他の子たちとは違うから……本当のことしか言わないから。だから、私は、遠子のことを誰よりも信じてる。遠子は私にとってかけがえのない友達なの」


遥の言葉には、真実の響きがあった。

そんなことを思ってもらえていたなんて。


「だから、私は、遠子のためなら、彼方くんを諦められるの」


そこまで言って、遥の顔が涙に歪んだ。


「ごめんね……遠子。遠子は今まで私のために、ずっと『好き』を我慢してたんだよね。ずっとずっと、自分の気持ちを押し殺してくれてたんだよね」


つられたように私までまた涙がこみあげてきた。


「ごめんね、気づかってあげられなくて。ずっとずっと、苦しかったよね……」

「そんなこと……」

「これからはもう、我慢しなくていいから。隠さなくていいから。だから」


遥は優しい微笑みでわたしを包んだ。


「行って。自分の心を解放しに、行って」


ありがとう、と泣き声でつぶやいて、私は遥に手を振った。