「私はね……遥が、彼方くんに告白して、断られたって知って」


どくどくと耳の奥でいやな音がする。

全身が心臓になったように激しく脈打っていた。


「……うれしい、って、思ったの」


泣きたくなった。

自分の心の醜さがいやでいやで、泣きたくなった。


「ごめん、遥……ごめんね」


涙が溢れて止まらなくなって、私は泣き崩れた。

すると遥も、「ううー」とうめいて崩れ落ちた。


彼方くんの絵の前で、私たちは泣き続けた。


泣いて、泣いて、一時間近くが経ったころ、どちらからともなく立ち上がった。


「……ふふっ」

「あはは」


なぜだかおかしくなって、顔を見合わせて笑った。


ひとしきり笑ってから、遥が「あのね」と声をあげた。


「彼方くんが遠子のこと好きだって、文化祭のときに気づいたんだ」

「えっ?」

「遠子が腹痛でどこかに行ったって長谷くんに聞いて、彼方くんが血相変えて探しに行ったから、ああそういうことかって、なんか色々納得したの」

「え……」

「だからね、あれからずっと、心の準備はしてたよ。だからもう覚悟はできてる」


覚悟? と聞き返すと、遥は極上の笑みをうかべた。


「遠子がね、『彼方くんと付き合うことになりました』って私に報告してくるときの覚悟」