しばらくだまっていた彼女の顔が、ふいにゆがんだ。



「……ごめんね、遠子。私、すごく、ずるいこと考えてたの」


いきなりそんなことを言われて、私は何も言えずに遥を見つめかえした。


「遠子がね、私のことすごく大事にしてくれてるの、分かってたんだ。私を裏切れないって考えてること、分かってた。だからね、きっと遠子はどんなに彼方くんのことが好きでも、あきらめるだろうって思ってたの」


風が吹いて、彼女の綺麗な髪をさらさらとなびかせた。

泣き出しそうに苦しげな顔をしていても、遥はやっぱり可愛くて綺麗だった。


「わざとらしく彼方くんのこと好きだ好きだって、何度も遠子の前で言って。そうしたらきっと遠子は彼方くんに告白したりしないだろうって、考えてたの」


遥がどこか自嘲的な笑みを浮かべた。


「……ずるくて、きたないでしょ?」


私は「そんなことない」と首を横に振った。


「そんなことないよ。私のほうがもっときたないこと考えてたもん」

「うそ」

「ほんとだよ。だって……」


言いたくなかった。

自分のきたない部分をさらすというのは、こんなにも苦しい。


でも、遥は言ってくれたのだ。

だから、私も言わなきゃ。