「遥」


放課後、私は彼女に声をかけた。

遥はいつものように微笑んで、「なに?」と首をかしげる。


この優しい笑顔を守りたくて、傷つけたくなくて、

この笑顔が歪むのを見たくなくて、

私は自分の心を押し隠してきた。


でも、それはいつまでも続けられることではないと分かったから。


「あのね……見てほしいものがあるの」


いつになくかたい私の声から何かを悟ったのか、遥は真顔で静かにうなずいた。


私は遥を連れて美術室へ向かった。


二人とも何もしゃべらなかった。

私は何も言えないまま、彼女に、その絵を見せた。


「これ……」


ぽつりとつぶやくと、遥は目を見開いてじいっとその絵を見つめていた。


「……彼方くん?」


私は、うん、と頷いた。


「すごい……綺麗な絵。すごくよく描けてる」


遥はこんなときでも、優しい。


「ありがとう」


と答えてから、私は言った。


「これが、私の、本当の気持ち」


じっと絵を見ていた遥の顔が、くしゃりと崩れた。


「うん……うん。知ってたよ……なんとなく、わかってた」


今にも泣き出しそうな声だった。


私まで悲しくなって、言うのをやめてしまいたくなる。

でも、言わなきゃ。


「……彼方くんに、告白されたの」