思わず目をそらすと、彼方くんが細く息を吐き出した。


「……なあ、遠子」


答えられなくて、私はただ黙っている。

彼方くんは構わずに続けた。


「俺さ、遠子のこと、好きなんだ」


胸の奥から何かが込み上げてきて、ううっと苦しい息が洩れた。


「ずっと前から、知り合う前から。一生懸命に絵を描いてる姿を見て、好きになったんだ」


私も、と言ってしまいたかった。


彼方くんと話すようになるずっと前から、一生懸命に跳ぶ姿を見て、どうしようもなく好きになった。


でも、言えない。

まだ、言えない。



「……ごめん、彼方くん。もう少し、もう少しだけ、待って……」


引いたはずの涙が込み上げてきて、私はまた両手で顔を覆った。


「やらなきゃいけないことがあるから……まだ、答えられないの」


しばらく黙っていた彼方くんが、ふっと息をついた。


「いいよ、待つよ。遠子がそう言うってことは、すごく大事なことなんだよな」

「うん……」

「待てるよ、全然。俺、けっこう気は長いほうだから」


軽い調子で彼が言うので、救われた気がした。



彼方くん、ありがとう。

私なんかを好きになってくれて。


本当に、本当に、嬉しい。

だから、もう少しだけ。

私がけじめをつけるまで、もう少しだけ、待っていて。