「ここで練習してるとき、いつも、あそこの窓で絵を描いてる女の子を見てた」


えっと声が洩れてしまった。

彼方くんがくすりと笑う。


「いつも見てたんだよ。気づかなかった?」

「え……いつから?」

「四月の中旬くらいからかな」

「えっ」


部活を始めたころからということになる。

まさかそんな前から見られていたなんて。


ということは、私が彼を時々盗み見ていたのも、たぶん彼方くんは知っているのだろう。


「毎日毎日欠かさず来て、暗くなるまで黙々と描き続けてて。すごいな、本当に絵が好きで、うまくなるためには努力を惜しまないんだなって思って」

「………」


後半は彼方くんをこっそり見ている時間もかなり長かったなんて、恥ずかしくて言えない。


「そしたら、なんか、いつの間にか気になって。部活に来たら、とりあえず美術室のほうをチェックするようになってた」


彼方くんが「なんかストーカー発言ぽいな」と苦笑したので、私はぶんぶんと首を横に振った。


「そんなことない。むしろ、う、」

「う?」


嬉しい、と言いそうになったけれど、飲み込んだ。


こんな言葉は言っちゃいけない。

まだ、言っちゃいけない。