マットの上に寝転んだまま、私は両手で顔を覆う。


すぐ横でマットが沈む衝撃とぼすっという音がして、彼方くんが空から落ちてきた。

でも、顔を覆っている手を外せない。


「遠子」


大好きな声に名前を呼ばれて、私はそっと顔を横に向けた。


指を少しだけ開いて、隙間から彼を見る。

晴れやかな笑顔で彼が笑っていた。


「どうだった?」


すごかった、と私はくぐもった声で答える。


「見たことがないくらい綺麗だった。ありがとう、彼方くん」


私はやっと、きみの空を見ることができた。

空を跳ぶときにきみが見ている空を、見ることができた。


「よかった」


ほっとしたように彼方くんが言って、どさりと横に寝転んだ。

二人でならんで空を見上げる。


涙がおさまってくれたので、私は手を外して身体の横に置いた。

すると彼方くんも同じように身体の両側に腕を横たえた。


私の左手と彼方くんの右手が、微かに触れあう。


彼方くんの指が動いて、私の小指に少し触れた。


どきりと胸が跳ねる。

よけるのも変かなと思って、硬直してしまう。


何も言えずにいたら、彼方くんが「あそこ」と唐突に声をあげた。


見ると、彼は反対の指で向こうを差している。


「あそこ、美術室」


そこにはたしかに美術室があった。