バーに近づいてくると、彼方くんの助走はさらにスピードに乗った。

もう少し、というところで、斜めに持っていたポールを高く振り上げる。


空を横切る線がもう一本増えたように、私には見えた。

二本の白い線が綺麗に垂直に交わり、空に浮かび上がる十字架のように見える。


息をのんだそのとき、高くのぼったポールの先端が一気に振り下ろされた。

ものすごい速さで私に向かってくるように見えた。


でも、怖くはない。

私は目を見開いたまま、それを見ていた。


ドンッという衝撃音がして、ポールの先が私の身体の真横に突き刺さった。


ポールが驚くくらいに大きく曲がる。

ぐうんと曲がって、曲がって、限界まで来たとき、彼方くんが地面を蹴った。

その身体がふわりと地面から離れる。


ほとんど地面と平行になったポールに全てを預け、彼方くんが宙に浮いた。


ポールは曲がった反動で大きく逆方向にしなり、彼方くんの身体を前へと運んでいく。


彼方くんは重力から解放されたように、ふわりと空を横切っていく。


私の目にはすべてがスローモーションのようにゆっくりに見えた。

だから、彼のすべてを私は心に刻みつけることができた。