「じゃあ、遠子、そこに寝て」

「うん。ここ?」

「そう。バーの真下」


私は彼方くんに言われた通りに横になった。


高跳びの棒の真下、マットの上に転がる。

視界が反転して、鮮やかな青空が広がった。

その真ん中を横切るように、白いバーがまっすぐにのびている。


絵になるな、と思った。


「じゃあ、今から行くよ」


横から彼方くんに話しかけられて、私はうなずいた。


「ポールが真横に来たら怖いと思うけど、絶対に遠子にぶつかったりしないから、安心してな」

「うん。彼方くんのこと信じてるから、大丈夫。怖くないよ」


にこりと笑って答えると、彼方くんが嬉しそうに笑った。


「じゃ、行くよ」


彼方くんが小走りに離れていく。


ずいぶんと遠いところまで行って、彼は踵を返した。


地面に置いていたポールを両手で身体の右側に持ち、彼方くんがすっと深呼吸をするのが分かった。

そのまま、風に乗るように、水に流れるように、滑らかな動作で走り出した。


徐々にスピードに乗って近づいてくる。

彼がとんとんとリズミカルに地面を蹴る軽やかな音が聞こえた。


私は瞬きをするのさえ惜しくて、目を見開いて彼を見つめつづける。

一瞬たりとも見逃したくなかった。

彼の動きひとつひとつを見つめて、記憶に焼きつけておきたかった。