「遠子、こっちこっち」


校舎を出ると、彼方くんがいつもの太陽みたいな笑顔でこちらに手を振っていた。

うん、と答えてそちらへと走っていく。


「久しぶりに晴れたなあ」

「そうだね。台風とかでずっと天気が悪かったもんね」

「本当だよ。やっぱり棒高跳びってさ、なんとなく晴れてるほうが気持ちよく跳べるんだよね」

「へえ! 天気と記録って関係あるんだ」

「いや、気持ちの問題?」

「あ、気持ちか」


思わずくすりと笑うと、彼方くんも小さく噴き出した。


彼方くんといるのは、とても居心地がいい。

どきどきするんだけれど、不思議なくらい穏やかな気持ちになる。

彼方くんの前では気を張らなくていいし、素直な自分でいられる。

一言一言に気を使わなくてもよくて、解放された気持ちになる。


まるでずっと昔からいっしょにいたような気がした。


「さて、やりますか」


グラウンドに着くと、彼方くんが気合いを入れるように言った。


今日は、あの約束を果たす日だった。

『きみの空を見せて』という私の願いを彼方くんが叶えてくれる日。


彼方くんの調子が良くなるのを待って、晴れの日がくるのを待っていたら、ずいぶん時間が経ってしまったけれど。