文化祭が終わると、あっという間に普段通りの日常が戻ってきた。


私はいつものように授業を受けて、放課後になると美術室へ行き、帰宅時間まで絵を描き続ける。

十月が締め切りのコンクールがあるので、大作をひとつ描いているところだった。


「遠子」


筆を休めていたところで、窓枠に頬杖をついていた彼方くんに声をかけられた。


「がんばってるな」


彼方くんがにこっと笑ってくれる。

それだけで、言葉にならないくらいに幸せだった。


「今、きりがいい?」

「うん」

「じゃ、いこうか。今日は快晴だからちょうどいいよ」

「うん。よろしくお願いします」


私は窓側の彼方くんに頭を下げ、それから反対側を向いて美術室を出た。



文化祭の日から数週間が経とうとしていた。

その間、私たちは夏休みの頃と同じように、毎日美術室の窓越しに話をしていた。


でも、それだけだ。

彼方くんは毎日のように私に会いに来てくれて、少しずつ距離を縮めようとしてくれているのは感じていたけれど、

彼方くんに告白を断られて、いまだに沈んだ様子をしている遥を見ていると、

私は今まで以上の関係になるのがどうしてもこわかった。