「蓮、なにその痣。相変わらずだなあ。ちゃんと冷やせよ」
「そんな目立たねえだろ」
そう答えると、根岸は「まあなあ」と苦笑を零した。
しばらく根岸としょうもない話をしていると、バスがやってきた。車内はさっきよりも空いていて、乗客のほとんどが同じ学校の生徒だ。みんなどことなく一ヶ月半ぶりの学校が憂鬱そうに見える。暑さで体がダルイのかもしれない。
吊革を持って前を見ると、窓ガラスにその姿が映し出されていた。
根岸の身長は一七五センチで、自分は一六五センチ。こうして客観的に見るとやっぱり身長差があるんだと実感する。中学までは根岸のほうが低かったというのに、中三で一気に身長が伸びた。今は十センチの差が開いてしまった。仕方ないのはわかっていてもムカつく。
「そう不貞腐れんなって。蓮はもう伸びねえだろうけど」
ムッツリとした表情で正面を睨んでいると、気持ちを察した根岸はケラケラと笑った。
「うっせ。まだ伸びるっての」
「無理無理」
バカにしたように頭に手を乗せてきたので、それを乱暴に叩いてやった。
そんな会話をしながら十分ほどバスに揺られていると、学校からすぐ近くの停留所に着いた。ドアが開くと、コンクリートが灼ける臭いがする。蝉は相変わらず精一杯生きていることを伝えるかのように叫んでいた。
ミーンミンミン、ミーンミンミン。
バカのひとつ覚えみたいに同じことしか叫ばない。
「おはー!」
乗っていたバスが排気ガスを撒き散らしながら立ち去ると、続けて違う駅からやってきたバスが停車した。そこから益美(ますみ)がひらりと降りて明るい声をかけてくる。
一年から同じクラスの友人だ。栗色の髪の毛がふわりふわりと左右に踊るように揺れる。いつも朝から一時間ほどかけて巻いているらしい。膝より十センチ以上も短いスカートから、程よく灼けた小麦色の足がすらり伸びていた。一学期よりも色が黒くなったのは、水泳部で相当練習をしていたからだろう。
「久々ー! 蓮夏休みちっとも遊んでくんないんだもんー寂しかったー!」
益美はそう言って、後ろからむぎゅっと抱きしめてきた。
「忙しかったんだよ」
身だしなみに気を使い、男の視線に敏感な女らしい女は苦手だ。
益美も一見そう見えるから、初めて話しかけられた時は身構えた。けれど、益美は違った。
見た目は少し派手な、今時の女子高生らしい雰囲気だけれど、部活動に励み誰とでも気さくに話すさっぱりした性格だ。
始めの頃は話しかけるなと言いたげなそっけない態度で相手をしていたけれど、なぜか益美はしぶとく話しかけてきた。
話を聞いているとそのうちに彼女の性格が勝手にイメージしていたものと違うことに気づき、いつしかクラスで最も仲のいい女子になった。益美のおかげで、女子への苦手意識も軽減されたような気さえする。