「蓮?」
固く握った拳に、観月の冷たい手が重なった。細くて長い、綺麗な手だ。強く握り締めると折れてしまいそうなほど華奢なその手が好きだと思った。
「なんだよ」
観月の手を握り返して、笑いかける。
「……なんでも、ない」
観月はほっとしたように口元を綻ばせた。
弱いくせに、なにもできないくせに、こうして寄り添ってくれる観月がいる。そんな観月を、自分に出来る限りの力で守ってやりたい。
『次は鶴橋(つるはし)、鶴橋に止まります』
車掌の耳障りなアナウンスが停車駅を告げて、電車は停車した。ぷしゅうっと気の抜けた音を出してドアが開かれる。
不快な金木犀の匂いを連れて、風が撫でるように優しく通り過ぎた。それは観月の帽子をさらい、長い前髪に隠された綺麗な焦げ茶の瞳と、醜く痛々しい額の傷痕を露わにした。観月が、死に損なった証。
隣にいる観月の手を強く握りしめて、脚を踏み出した。
出来損ないの自分と、死に損ないの観月。
僅か十七歳のふたりが、無防備に飛び出していくことに不安はある。だけど、それ以上の希望を抱いている。
地に囚われていた鎖から、開放された。
自由の広がる空に、飛び出すんだ。
臆することなんてなにもない。
矛盾だらけの、窮屈で理不尽なろくでもない世界を捨てて互いの手だけを握りしめ――飛び立つんだ。
そう、これは逃〝飛〟行だ。