長い前髪に、どもりがちな話し方、丸まった背。

どれもこれも変な奴を印象づける。学校終わってから家にも帰らずこの公園ですーっとブランコ漕いでいたとか、意味がわからない。

相当暇だなこいつ。

こういう奴とはかかわらないほうがいい。変に懐かれてややこしいことになりそうな予感がする。そういうのは面倒くさい――けれど。

「……それ、誰に?」
「え?」
「傷あるだろ。深いやつ」

とん、と自分の左瞼を指で差さした。さっき、風が吹いた時にちらっと見えた傷跡。

きょとんとした様子の遠山は、しばらくしてからハッとして自分の目元を手で隠して「な、なんでもな、い!」と慌てて俯く。

それがなんでもない態度であるはずがない。嘘が下手すぎる。

遠山の目の前にしゃがみこんで、右手で遠山の目元にかかっている髪の毛をすくう。その下には、戸惑いなのか羞恥なのか、それとも恐怖なのか、わからないけれど揺れる瞳が地面を見つめていた。

遠山の整った顔立ちに不釣合いなほどの大きな傷がそこにはあった。

額の髪の毛の生え際から左目の瞼まで伸びる醜いもの。切り傷と擦り傷が混ざった大きな傷跡は、まるで悪意の塊のように見えた。

おそらく幼い時のもので、処置がちゃんと施されなかったのだろう。ボコボコと膨れ上がって肌が突っ張ったようになっていた。せっかく綺麗な顔なのに、もったいない。

「痛そうだな」
「もう、痛く……ないよ」
「まあ、そりゃそうか」

くは、と笑ってみせる。それに安心したのか、遠山も微かに口端を持ち上げて笑った。やっぱり歪な笑顔だなあと思う。今にも泣き出しそうなのに、全てを諦めたようにも見える。

変な顔だ。

すっと手を引くと、遠山の目元はまた厚く長い前髪に隠れて見えなくなった。

「なんの傷?」

質問を投げかけると、遠山は俯いて前髪を整えた。返事を待つ間に遠山の隣のブランコに腰かけると、ぎい、と怪しげな音が鳴った。前後に動く度に、大きな音が響き渡る。遠くで犬が吠えているのが微かに聞こえる。