昨日までなら自転車で一気に家まで走って帰っていたから、あっという間だった。けれど、徒歩だとどうしてもいろんなことを考えてしまう。
数分歩いただけでじっとりと肌が汗ばんできて、カッターシャツがベトベトと貼りついて不快指数も上がるばかり。今までだって何度も歩いて帰っているのに、久々だとこんなに遠かったっけ、と思えてくる。
はーあ、と声を出してため息を落とし、とろとろとした速度で歩いた。
どこからか、ぎい、ぎい、と金属がこすれる音が響いてくる。
しばらく進むと、右手に小さな空き地のような公園があり、音はそこから聞こえていた。
ふと足を止めて視線を向けると、ブランコが前後に揺れている。
誰かが、いる。ゆらりゆらりと前後に動くブランコに乗っているやせっぽっちの体が公園のライトで照らされていた。
あいつは、確か――そう思い、公園に踏み入れるとじゃり、と砂が擦れる音が響く。
「……あ」
音に気づいたらしく、ブランコに揺られていた人物はゆっくりと顔を上げて視線をこっちに向けた。
間違いない、今日クラスにやってきた転校生だ。名前は確か、遠山。遠山、なんだったっけ。
近くまで歩み寄ると、遠山の長い前髪がやってきた風によってふわりと浮いて視線がぶつかった。
その目があまりに綺麗で思わず胸がどきりと跳ね上がる。
どうして長い前髪で隠しているのかと問いたくなるほど整った顔立ちをしていた。けれど、同時にどうして隠しているのかも、一目でわかる。
「なにしてんの、お前」
「……やっぱり、きみだったんだ」
こちらの質問には答えずに、遠山はひとりでなにか納得したかのような意味のわからないことを言う。
首を傾げると「いつもここ、通ってたよね」とさっきまで歩いていた道を指差した。
「こっちに越してきてから……いつも自転車であの道を自転車で走る姿を、見かけてたんだ……今日教室で見かけて、もしかしてって思って、た」
遠山はそう言ってへらっと口元を緩ませた。けれど、それは笑顔というよりも愛想笑いみたいなものに見えた。
変な笑い方。
「バイト帰りに通るから。っていうか、なにしてんのこんなところで〝いつも〟」
「……な、なにも」
「家、帰んないの? 制服じゃん、まだ」
遠山は俯いて「うん」とよくわからない返事をする。なんだこいつ。返事になってないんだけど。