バイト先は、学園前駅までバスで戻り、そのあと家とは違う方向のバスに乗り換えて五つ目のバス停で降りる。そこから歩いて数分の日本最大手のコンビニエンスストアだ。

根岸が以前コンビニバイトはやることが多すぎて割にあわないから他の仕事を探したほうがいいと言っていたけれど、慣れればラクな仕事だと思う。

一時間ごとに九百円、そこに交通費が加算される。
そんなに待遇がいいわけではないが、家から自転車で来ることもできるし、仕事にも慣れているので、できれば卒業までここで働きたい。

コツコツと、地道に貯めていければいい。

いつものように与えられた仕事を黙々とこなしていると、時間はあっという間に過ぎ去っていく。

いつの間にかシフトの交代時間が近づいていたらしく、入り口から大学生の大野(おおの)さんが「おはようございますー」と入ってきた。

学校もだけれどバイトも、終わる度に憂鬱になる。あの家に帰らなければいけないのだと思うと、気分が一気に沈んでしまう。

バックヤードからコンビニのシャツに着替えて大野さんが戻ってくると、バイト終了だ。

バックヤードに戻ってタイムカードを押すと、ため息が落ちる。死角になっている部屋の隅っこでいそいそと制服に着替えていると、ドアが開く音がした。

「あ、ごめん着替えてた?」
「あー、大丈夫です。今終わったところなんで」

オーナーがタバコを吸いにやってきたらしい。制服に着替えてひょっこりと顔を出すと「お、制服か」と珍しそうな表情を見せた。

「制服だとやっぱり印象変わるねえ」
「そーですか? んじゃ、お疲れ様です」
「はい、お疲れー」

ぺこりと頭を下げてバックヤードを後にする。そのままレジにいる大野さんにも「お疲れ様です」と告げてから店を出た。

自動ドアの先は湿気に包まれている。

まだ真夏のように暑い日が続いているけれど、日は一時期に比べると低い位置にあった。空は薄鼠色に染められている。

学校からこのバイト先までバスで通えるのが利点だ。
けれど、家までが遠い。

バスで帰ろうと思うと一度駅まで戻らなくてはならないので、三十分弱ほどかかってしまう。

歩いて帰るのと対して変わらないとなれば、歩くほうが楽だ。いや、どっちも面倒なのだけれど。学校帰りでなければ自転車ですぐなのに。

夏の夜はやたら明るい。そして住宅街にもかかわらず、この辺りは人の気配が少ない。その奇妙なチグハグ感。

みんな家の中にこもっているらしい。
どこかからか晩ご飯のカレーの匂いが漂ってくる。

その家は、カレーを食べながら家族団欒の時間を過ごすのだろうか。国民的アニメのお馴染みのシーンが脳裏に浮かぶ。

「帰りたくねえなあ……」

そんなことを想像していると、思わずぽつりと本音を零してしまった。