昔から顔の痣について教師に『どうしたの』と何度も聞かれた。その度に『喧嘩した』だとか『転んだ』と適当な言い訳でやり過ごしてきた。

『父親に殴られたから』なんて言ったことは一度もない。

そんなことを口にすれば〝子供が悪いから怒ってる〟だけの父親から今以上に殴られることは火を見るより明らかだからだ。

それ以上に、親に殴られるなんて恥ずかしいことを他人に自ら言いたくはない。

家以外でも惨めな思いをするなんてまっぴらだ。

常に『それ以上聞くな』と壁を作ったような態度で接していた。元々愛想がそんなによくないせいもあってか、いつからか〝素行の悪い生徒〟のように思われたらしい。顔に痣を作るだけで学校で問題を起こすわけでもなかったからか、誰もなにも言わなくなった。


一年で担任になった若松も、案の定『その傷はどうしたんだ』としつこく聞いてきた。

それだけならまだしも、こいつの場合は『親御さんも心配するだろう』だとか『問題が起きてからじゃ遅いんだ』と口にする。

心配しているかのように声をかけてくるくせに〝他校生と喧嘩をした〟と決めつけていたのが気に入らない。

おまけにやたらと体に触れてくるところも気持ちが悪い。

肩をつかんで『オレはお前達生徒が大事なんだ』と押しつけがましい正義を口にする。

そんな若松の〝親切心〟を今までの教師以上に無下に扱ってきたからか、二年に進級する頃には〝問題児〟扱いされて目をつけられている。

〝素行の悪い生徒〟だと決めつけて、ちょっと学校でガラスが割れただとか物がなくなったなんて話が出ると『お前がやったのか』と言い出すのだ。

偉そうな大人はみんな嫌いだけれど、その中でも若松は上位に含まれる。
なんでこの男が二年でも担任なのかと未だに不満だ。

若松以外の担任なら高校生活は今より二割増しくらいで楽しかったかもしれない。


そんな若松は、今日もランニング直後なのかと聞きたくなるほど顔をテカらせている。

後ろを見覚えのない生徒が俯きながらついてきていた。クラスメイト達は近くの生徒とこそこそと話ながらその生徒に視線を向ける。

前髪が鼻まで隠すほど長く、顔がよく見えない。
肩に掛かるくらいの髪の毛は、伸ばしているというよりも切らずに放置している、という感じだ。

体の線がやたらと細くひょろひょろで色気もクソもない。
身長はそこそこあるのに、痩せすぎているからかとても小さく見えた。いや、背が高いからこそ華奢に見えるのかもしれない。