一ヶ月半ぶりの学校は相変わらず騒がしい。
学校にはそれなりに友達もいるし、勉強だってそこまで苦手ではないから家にいるよりも好きだ。
けれど、バイトしているほうが好きだ。働けば働いた分だけ手元にお金が入る。お金が増える度に未来への道が作られていくような感じだ。潰れることのない、確実で安心な道が出来上がっていく。
今日は始業式なので午前中で終わるけれど、明日からはがっつり一日学校に拘束されることになる。働けるのは数時間。そう考えると学校なんてやめてしまいたくなる。
そんなこと出来ないからこそ、バイトをして今はお金を貯めることだけを考えているのだけれど。
「そういや聞いたか、蓮、益美」
ぼんやりと考えていると、斜め後ろの根岸が机に身を乗り出して話しかけてきた。
「なにを?」
「転入生がやってくるんだってよ」
「……へえ。珍しい。こんな時期に」
「その噂、あたしも聞いたけど本当なの? 今、高二の二学期だよ」
「本当らしいぞ。絶対ワケありだよなあ」
「親の転勤かもしれねえだろ、そこは」
いやいや絶対ワケありだ、と根岸は繰り返す。興味津々と顔にでかでかと書いてあった。
「で、このクラスに来るの? 男? 女?」
「いや、そこまでは知らねえ。バスケ部の奴が夏休みにここに親と一緒に歩いてる私服の奴を見かけたとかで。このクラスの担任としゃべってたらしいから、このクラスなんじゃねえ?」
「ふーん」
ワケありかどうかはわからないけれど、珍しいには違いない。どんな奴か興味はある。こんな時期に転入なんて、どんな事情にしろ大変そうだ。
その後チャイムが鳴り、生徒達は始業式のために体育館に集められた。校長の長々とした話を半分寝ながら聞いて、どっかのクラブがなにやら優勝だか準優勝だかで壇上に呼ばれたら拍手を送った。
小一時間ほどの退屈な式が終わって教室に戻るとすぐに担任の若松(わかまつ)が教室にやってきた。
三十代前半で、この学校では若いほうの教師だと思う。短髪で筋肉質、いつもジャージを着ていて一見体育教師のようだけれど、化学を担当している。
生徒からの評判は特に悪いわけではない。誰とでも友達のように話すところが好きだという奴もいるだろう。些細な悩みにも真剣に耳を傾けてくれる今時珍しい熱血教師だと信頼している奴もいるらしい。
けれど、個人的にはこの男の馴れ馴れしい口調が嫌いだ。