栄嗣からの連絡が途絶えた。メールしようが電話しようが、何時間待っても何日待っても返ってこない。どうしても栄嗣からのメールが欲しくて「ごめん、ちょっと忙しかった」そのひとことが聞きたくて、思いつく限りの言葉を栄嗣に送り続けた。

『元気? 最近会ってないけどどうしてる?』『忙しいの? メール返してよー』『ねぇなんで無視? もしかしてあたしのこと嫌いになった?』……どんなに言葉を連ねてもどんなに疑問符を並べても、新着メール0件。

 このままじゃいけないと思って放課後、ゲタ箱の前で栄嗣を待ち伏せした。友だちと肩を並べて笑い合いながら出てきた栄嗣は、あたしの姿を認めるなりさっと顔を強張らせ下を向いて早足で通り過ぎていく。一緒にいた男子たちはそれでも栄嗣の名前を呼び続けるあたしを訝しそうに見つめながら、栄嗣の後を追った。

 どうしてこんなことになるのか全然わからない。もしかしてマックで泣いちゃった、あのデートが原因? いやあの後一度だけ一緒に帰ったことがあるけれどその時は別に普通だったし、手も繋いだ。あたしが目の前で流した涙なんか忘れたように、友だちが宿題のプリントを忘れて昼休みに取りに帰って結局五時間目に遅刻して怒られたとか、そんなどうでもいいことを笑いながらしやべってた。

 ようやく栄嗣と連絡がついたのは無視されて四日目の夜だった。数えて十五回目のコールでやっと通話状態に切り替わる。

『もしもし』

 懐かしい声に泣きそうになるけど、すぐにその声がいつもの栄嗣とは違うこと、不機嫌さが滲み出ていることに気付いて、すうっと背筋が冷えていく。

『なんか用?』
「いや、用っていうか……」

 怒ったような声でそんなふうに聞かれたら何を言っていいのかわからなくなる。言葉を探して見つからなくて沈黙するあたしに、追い打ちをかけるように栄嗣は言う。

『用ないなら、切るぞ』
「ううんいや、用ある……ねぇ、えっと、元気だった?」
『普通』
「そう、普通か……最近、寒いね」
『そうだな。もうそろそろ冬だしな』

 すぐに会話が途切れてしまう。いくら勉強と相性の悪いあたしだって、栄嗣があたしとしゃべりたがってないこと、さっさとこの電話を切りたくてたまらないでいることはわかった。わかってしまった。

「ねぇ、どうしたの? なんでずっと無視してたの? メール全然返してくれないし学校で話しかけようとしてもシカトじゃん」

 言ってから後悔した。ここ数日の栄嗣の様子と今の反応、それを考えたらこんな質問をしたって、あたしの望んでる答えが返ってくるわけない。自ら栄嗣との絆に決定的な皹を入れてしまったんだと思った。

 永遠に続きそうなだんまりの後、お腹の底から湧き出してきたようなため息が聞こえた。不機嫌な声に少しだけ悔しさのような悲しみのようなものが混ざる。