「ごめん、悪かった。今のはナシで」
「ナシになんかなるわけない」
「ほんと、ナシで。今俺が言ったこと気にしないで。マジにごめん」

 いくら謝られても、ナシと言っても、一度口から出て行った言葉は取り消せないし、栄嗣の一言でえぐられた心が元通りになるわけない。

 わかってしまった。今のが栄嗣の本音なんだ。





デートの後半、栄嗣は優しかった。ぐずぐず泣き続けるあたしに泣かせたお詫びだってソフトクリームをおごってくれたし、その後行ったゲーセンではUFOキャッチャーのぬいぐるみを取ろうと頑張ってくれた。それも全部、自分のお金で。

 携帯はまだ帰らないのかだの今どこにいるのかだのと親からのメールが三件立て続けに受信して、栄嗣も家のことしなきゃいけないからって9時過ぎには解散した。一人で歩く家までの道は、二人肩を並べて歩いてた時よりずっと遠く感る。商店街は8割方の店がシャッターを閉めていて、開いてるのはコンビニやビデオショップだけ。

スーツ姿のサラリーマンや自転車に乗った制服姿が家路を目指してて、あたしはその間をわざとゆっくり歩きながら後から来る人に次々抜かれていた。今さら急いで帰ったところで絶対怒られるんだしだったらなるべく遅く歩いて遅く帰って、怒られる時を先延ばししたい。栄嗣が取ってくれた計3つのぬいぐるみは大きくてやけに重い。あんなことを言われたショックはぬいぐるみぐらいじゃ癒えない。