ヤキモチを妬かせたくて不安にさせたくて、わざと栄嗣の視界に入るところで増岡たちと仲良くしてみたこともある。必要以上に増岡に近づいて、何それーって笑いながら親しげに制服の袖を引っ張った。でも期待を込めて振り返っても栄嗣はこっちで起こってることに気づいてもいなくて、自分の友だちと笑い合ってた。

 毎日会わなくても大丈夫。あたしからの誘いを断っても大丈夫。あたしが他の男の子と仲良くしてても大丈夫……? そんなふうに思ってほしくないのに。

 だからこそ、一度は断られたからって、急すぎる身勝手な誘いだって、会わない? って言ってもらえて嬉しかった。最近、栄嗣のことを考えるだけで不安で泣きそうになってただけに。

 夜七時台のマックは楽しそうな若者たちとフライドポテトが放つ油の匂いと、騒々しいおしゃべりや笑い声でいっぱいだ。大学生や高校生が多いけどさすがに中学生はもういない。条例で、夜七時以降は中学生は外にいちゃいけないことになってるらしい。そんなの誰が守るんだか。幸いあたしは大学生みたいな恰好だし、栄嗣は制服だけど着崩したブレザーは高校生にしか見えなかった。補導員だってきっと見過ごしてくれる。

「シェイク飲むのとか久しぶり」

 二人とも金欠でシェイクをひとつずつだけ頼んだ。栄嗣と向き合って甘ったるい液体をすすっていると、体全体が甘ったるく満たされていく。女子の憧れの栄嗣。二年生で一番モテる栄嗣。その栄嗣はあたしだけの彼氏で、あたしだけに熱っぽい眼差しをくれるんだ。

「嘘、マジで? 俺昨日も飲んだよ」
「一学期の頃は、毎日来てたじゃん、このマック。でも最近、全然来てないし」

 さりげなく嫌味を込めたけど伝わらなかったのか、栄嗣は痛くもかゆくもない顔。

「半田とかとはマック行かねぇの?」
「鞠子も明菜たちも、家、逆方向だもん。学校の近くのクレープ屋さんとか、コンビニが多いかな」
「出た、クレープ。女の食べ物だよな」
「栄嗣、甘いの嫌いだっけ」
「嫌い」
「このシェイクだって十分甘いのに」

 シェイクはシェイクだからいいんだよ、と栄嗣は全然わからない理屈を口にした。

 誰かが冗談でも言ったのか隣のテーブルでソプラノの笑い声がはじけて、あたしと栄嗣の視線は一気にそちらに吸い寄せられる。この近くにある西高の女子高生たちだ。ブラウスの胸にぶら下がったリボンも、組んだ足の間からちらちら見える太ももの白も、少し傷んだ茶髪もみんな眩しい。あたしや明菜たちも似たような恰好をしてるつもりだけど、やっぱり高校生ってだけで自分らより断然大人に見える。

 栄嗣は一瞬彼女たちのほうを見ただけですぐに興味なさそうに目を逸らしてしまったけど、あたしの視線はあの子たちにロックオンされたまま。栄嗣のテーブルの下の足を膝でつつきながら言う。

「早く高校生になりたいね」
「だな」
「一年半後、一緒に行こうね。西高」