でも栄嗣は見た目は高校生みたいなのに、恋愛には信じられないぐらいオクテだった。鞠子たちが気を遣って二人きりにしてくれても全然コクってくれないし、勇気を振り絞ってこっちから「好きな人いる?」って聞いても照れて笑うだけ。あたしたちが付き合ってるって噂は中一の頃からあったけど、実際にそういう関係になったのは栄嗣がやっとコクってくれた今年の五月からだ。

その告白も友だちにさんざん促され、クラスが別れてあんまり会えなくなったって焦りもあって、ようやく重い腰を上げたって感じだったし。

 何はともあれ、あたしと栄嗣は念願叶ってカップルになった。夏までは、楽しかった。放課後は必ず一緒に帰ったし、夏休みはほぼ毎日栄嗣の家に遊びに行った。親が離婚して母親が働いてる栄嗣の家は、下にいる二人の弟も夏休みだからってプール通いに忙しくて、二人きりになれることが多かった。誰にも邪魔されない空間で宿題をしたりゲームをしたりDVDを見たりしながら、何度か抱きしめられた。キスもした。

大人っぽい栄嗣とはすぐそういうことをするだろうと思ってたし、桃子なんて中一の頃付き合ってた先輩と付き合ってから最初のエッチまで一カ月なかったっていうから、いつまでも手を出してこない栄嗣が意外ではあったけれど、それも大切にしてもらえてるんだって楽観的に解釈してた。

 なのに夏の暑さが過ぎたら栄嗣の熱い気持ちも少し冷めてしまったのかもしれない。

 二学期になってから、栄嗣はあたしとのデートよりクラスの友だちとの約束を優先するようになった。会いたいって言っても、その日は友だちと約束してるからって断られることが多い。家に行くことは少なくなったし、たまに行っても夏休みが過ぎると二人の弟も家にいて、気になって手を絡め合うことすら出来なかった。

 でも問題はいちゃいちゃ出来ないことよりもデートの回数が減ったことよりも、栄嗣自身があんまりそれを問題にしてないことだ。

 栄嗣はきっと、安心している。あたしと栄嗣の仲は確かなもので、ほっといてもあたしの気持ちはどっかに行ったりしないって、信じきってるんだ。それ自体は悪いことじゃないのかもしれないけれど、あたしたちは何年も連れ添ったじいちゃんばあちゃんじゃなくて、若さ真っ盛りの中学生だ。大切にされるより情熱をぶつけてくれたほうが嬉しい。