「ごめん、待たせた?」
「ううん、今来たとこ」

 言いながら吸い殻をポトンと地面に落とし、スニーカーの底でもみ消す。消されたタバコはだいぶ短くなっていてきっと「今来たとこ」じゃないのに自然に気を遣ってくれる優しさが大人で、こういうところも恰好いい。こんな気遣い、増岡とか小松崎とか、月並みの同級生の男子にはちょっと真似できないし。

 栄嗣がはずみをつけて立ち上がって、勢いでブランコがぐらり、と大きく揺れた。あたしが私服に着替えてきたのに対し、栄嗣はまだ家に帰ってないらしく制服のままだ。

「どこ行きたい?」
「とりあえず、どっか入ろうよ。外、ちょっと寒いし」
「オッケー。マックでいい?」

 歩き出してしばらくすると栄嗣が手を握ってきた。冷たいな、と確認するように言う。ごめん、と返すと栄嗣は斜め上で別にいいよ、ってニッと笑った。きゅっと上がった口元も頬にいくつか散らばってる赤いニキビも格好いいと思えた。栄嗣の全部が恰好いい。

 栄嗣とは中一の時一緒のクラスで、その頃から鞠子とかとも一緒に男女合わせて六人や七人ぐらいのグループでよく遊んた。他のガキみたいな男子と違って不良っぽくて大人っぽい栄嗣は、あたしをやたらドキドキさせた。

時々学校をサボるし、深夜徘徊もタバコも常習犯な栄嗣は先生たちからは目をつけられてたけれど、どことなく落ち着いた余裕のある佇まいとか、ただだらしないだけじゃなくてセンスが光る制服の着崩し方とか、ちょっと濃いめだけどくっきり整っていてで中学生にして既に子どもっぽさを脱ぎ捨てた顔立ちとか、女子たちから常に高く評価されていた。

中一の頃、クラスには栄嗣のことを好きらしいって子が五人もいたくらい。他のクラスも合わせたら二桁に達してただろう。見た目は不良っぽいのに女の子には優しくて、休み時間に騒いでても他の男子のように「うるせー」って怒鳴ったりしないし、先生から頼まれた重い荷物を運んでる子を見ると当たり前のようにすっと手を貸してくれる。顔だけじゃない、性格だって抜群だ。

 モテまくりの栄嗣だけど、あたしは栄嗣と付き合えることを最初から確信していた。見事なヒエラルキー社会の中学校では、「上」は「上」の者同士と付き合う、それが暗黙のルール。いくら栄嗣のことが好きだからって、可愛くなかったり地味だったりしたら、カップルになるなんて絶対許されない。

女子たちの人気者で「上」の中でも最上位の栄嗣と付き合えるのは、可愛くて化粧も上手くて髪も染めて、胸だって中学入学の時点で既にCカップあった、「上」の最上位にいる女子のあたしだけだ。そして栄嗣はさすがそのことにいち早く気付いたらしく、あたしを自分に最も相応しい相手だと認め、時々他の女の子にはしない熱っぽい視線を送ってきた。