『今友だちと遊んでんだけど、もうちょっとで解散なんだよねー。よかったらこの後会わない?』

 今日放課後デートに誘ったのはあたし。それをクラスの友だちと先約があるからって断られて、正直かなり凹んでた。そんな矢先にこのメール。いきなり過ぎるし、もう外は真っ暗だし、だいたい最初に誘いを断ったのはそっちで勝手極まりないけれど、それでもあたしの心は嬉しさで、風船ガムみたいにぱんぱんに膨らむ。

 5秒で『いいよ! 遊ぼう』って返信メールを打ち、メイクポーチを取り出して化粧を直す。服も私服に着替えた。デート仕様だからギャル度はちょっと控えめにして、女の子らしく大人っぽく。タートルネックの上にフリルとレースがついた白いワンピース、胸元には8月の誕生日、栄嗣からプレゼントされたハート型のプチネックレス。

よそ行きのケープコートをはおれば、CanCanの誌面から飛び出してきたみたいな「モテかわ」な女の子の完成だ。こんな大人びた恰好、チビの鞠子や化粧でごまかしてるけど実は地味顔の明菜には絶対似合わない。中学生でCanCan系のワンピースを違和感なく着こなすあたし、我ながらすごいと思う。

 髪を巻いてる間、栄嗣から再びメールが来た。待ち合わせは二人の家の中間地点、ここから歩いて5分の児童公園にしようねと。学校でいくらでも会えるのに放課後にわざわざ二人で落ち合うのはカップルの特権で、何度やってもスペシャルなことの気がする。

なるべく足音をさせないように静かに階段を下り、今度は店からじゃなくて家族用の玄関からこっそり出た。外がすっかり暗くなってから中学生の女の子が遊びに行くなんて、頭の固い親がいい顔するわけない。何も言わず出かけたところでどうせすぐにバレて帰ったら怒られるんだろうけど、せめて行きだけでも顔を合わせないで、怒られないで出たい。

 と思ってたのに、玄関を出た途端お父さんに呼び止められた。お父さんは庭の端っこに建てられた、店で使う調理器具をしまってあるプレハブ倉庫から出てきたところだった。お父さんはあたしの頭のてっぺんからリボンつきのブーツを履いた足先までさっと視線を走らせて、一気に不機嫌な顔になる。