我ながら勝手な「許せない」だけど、仕方ない。あたしの初恋はお兄ちゃんだ。六歳も離れているあたしとお兄ちゃんは普通のきょうだいとは違って、小さい頃から叱られることはあっても、いじめられたりからかわれたりなんてことはほとんどなかった。
かまってくれない両親に代わって小さいあたしの保護者になってくれたのはお兄ちゃんで、あたしはお兄ちゃんと遊び、お兄ちゃんに甘え、お兄ちゃんが作ってくれるご飯を食べて育った。恰好よくていつも優しくて、勉強もスポーツもなんでもできたお兄ちゃん。
鞠子をはじめ、友だちみんなが「恰好いい」って褒めてくれる自慢のお兄ちゃん。そんな人が同じ家の中にいて、好きにならないほうがどうかしてる。幼稚園の頃、お兄ちゃんと結婚できないって知った時はひと晩泣き明かしたけれど、叶わない恋は栄嗣が現れるまで密かに続いた。
そのお兄ちゃんが家を出て行って、捨てられた、と思った。この家に一人残されるあたしがどんな気持ちかわからないわけじゃないだろうに、それでもお兄ちゃんは夢のほうを選んだから。もちろんお兄ちゃんが決めたことだから応援したい。「弁護士になって人の役に立ちたい」って小六のあたしに語ったお兄ちゃんは素敵だったし。
でもお兄ちゃんがいなくなった三人きりの家は、親にガミガミ怒鳴られ眉をひそめられるだけの場所になってしまった。離れていったお兄ちゃんは、今はあたしの存在なんか半ば忘れて自分のことで頭がいっぱいだ。
今はお兄ちゃんのことを好きだとは思わない。正確には好きじゃなくなったわけじゃないけど、もうお兄ちゃんには期待してない。今のお兄ちゃんに手を差し伸べたところで握ってくれるわけはないから。
フラップを閉じた机の上の携帯の隅を人さし指でつついていた。コンポから流れる曲がバラードになって、そういえばこの曲よくお兄ちゃんと聞いたっけな、あたしの人形遊びに付き合ってもらいながら……
なんて、思い出が切なさと一緒に喉を貫く。の短いメールになんて返信したらいいんだろう? 「ほんとに忙しいの?」「最近メールが少ないのはなんで?」「いい加減家に帰ってきてよ」……きっとどれも言えない。核心に触れることを書いて、はっきりした答えが返ってくるのが怖い。
バイブモードにしている携帯が勢いよく震えて、びっくりして手を引っ込めた。反射的にお兄ちゃんだ、と思った。違った。でもディスプレイに表示された名前は、あたしの目を見開かせる。中沢栄嗣。
かまってくれない両親に代わって小さいあたしの保護者になってくれたのはお兄ちゃんで、あたしはお兄ちゃんと遊び、お兄ちゃんに甘え、お兄ちゃんが作ってくれるご飯を食べて育った。恰好よくていつも優しくて、勉強もスポーツもなんでもできたお兄ちゃん。
鞠子をはじめ、友だちみんなが「恰好いい」って褒めてくれる自慢のお兄ちゃん。そんな人が同じ家の中にいて、好きにならないほうがどうかしてる。幼稚園の頃、お兄ちゃんと結婚できないって知った時はひと晩泣き明かしたけれど、叶わない恋は栄嗣が現れるまで密かに続いた。
そのお兄ちゃんが家を出て行って、捨てられた、と思った。この家に一人残されるあたしがどんな気持ちかわからないわけじゃないだろうに、それでもお兄ちゃんは夢のほうを選んだから。もちろんお兄ちゃんが決めたことだから応援したい。「弁護士になって人の役に立ちたい」って小六のあたしに語ったお兄ちゃんは素敵だったし。
でもお兄ちゃんがいなくなった三人きりの家は、親にガミガミ怒鳴られ眉をひそめられるだけの場所になってしまった。離れていったお兄ちゃんは、今はあたしの存在なんか半ば忘れて自分のことで頭がいっぱいだ。
今はお兄ちゃんのことを好きだとは思わない。正確には好きじゃなくなったわけじゃないけど、もうお兄ちゃんには期待してない。今のお兄ちゃんに手を差し伸べたところで握ってくれるわけはないから。
フラップを閉じた机の上の携帯の隅を人さし指でつついていた。コンポから流れる曲がバラードになって、そういえばこの曲よくお兄ちゃんと聞いたっけな、あたしの人形遊びに付き合ってもらいながら……
なんて、思い出が切なさと一緒に喉を貫く。の短いメールになんて返信したらいいんだろう? 「ほんとに忙しいの?」「最近メールが少ないのはなんで?」「いい加減家に帰ってきてよ」……きっとどれも言えない。核心に触れることを書いて、はっきりした答えが返ってくるのが怖い。
バイブモードにしている携帯が勢いよく震えて、びっくりして手を引っ込めた。反射的にお兄ちゃんだ、と思った。違った。でもディスプレイに表示された名前は、あたしの目を見開かせる。中沢栄嗣。