甘いクレープを食べたってよどんだ心はちっとも晴れなかった。 

クレープ屋のワゴンの前、ベンチを占領して大声ではしゃぐあたしたちは、傍目には何の悩みもなくて毎日がひたすら楽しい中学生に見えただろう。

でもその実、べらべらしゃべりまくってるのは明菜たちだけ。あたしがいなくても何の問題もなく成り立ちそうな会話も時々鞠子が気を遣って話しかけてくるのも、胸に巣食ったイライラを増幅させる。

ちょっと前までは、文乃いじめを始めたばっかりの頃は、こんなんじゃなかった。みんな、ニュースでさんざん騒がれてるいじめ問題の主人公に自分がなれたことに興奮して、いじめをすることで自分がちょっとだけ偉くなれた気がして、「今度はどうやって文乃をいじめるか」って話題で何時間でも盛り上がれた。いじめを通じて五人の結束は強まったはずだった。もちろん、あたしを中心に。

 文乃が悪いんだ。あいつ、何したって無反応なんたもん。ハンカチをゴミ箱に捨てられようが教科書に接着剤を塗りつけられようが上ばきを穴だらけにされようが、ドブ川みたいにどす黒く濁ったくらーい目をぼんやり宙に彷徨わせるだけ。泣くとかキレるとか何か反応がないといじめって面白くない。

一年の頃蒼衣をいじめてた時は面白かったのに。「いつも顔が赤いからアオイじゃなくてアカイね」なんてひどいあだ名をつけてみんなの前でアカイアカイって呼んでやると、今にも涙を溢れさせそうな困った顔を無理やり笑いの形にさせてたっけ。本当はそんなふうに呼ばれたくない、でも「やめて」って言った途端ハブかれたらどうしようって、卑屈でグズグズした気持ちが顔に出まくりで面白かった。

 だけど文乃は何をされても「ほんとは嫌なのに」って顔をしないし、実際そう思うこともないんだろう。小学校からずっといじめられ続けてクラスに一人も友だちがいない文乃は、きっとプライドってもんがない。もともと一人だからハブられたところで辛いわけないし、いじめられるのも文乃にとっちゃ当たり前のことなんだろうし。

ブスでトロくて性格が暗くて、まさにいじめられるために生まれてきたであろう文乃は、誰よりも大きな火花をあたしの頭ではじけさせる、最高のターゲットだと思ったのに。とんだ期待外れだ。

 ムカつく。何の役にも立たない、死んだところで誰にも悲しまれない人間なんだから、せめてあたしを楽しませるぐらいしろっつーの。なんとかして文乃を泣かせてやりたい。表情筋が麻痺してる醜い顔をもっとぐちゃぐちゃに醜く歪ませて、「やめてよ」って泣きながら怒らせたらどんだけ気持ちがいいだろう。