「なんなのよ」

 自分の声が震えてるのがわかる。文乃はあたしの睨みつける視線に気づいてないのか、気付いて無視してるのか知んないけど、何事もなかったように昇降口を出て裏門のほうにてくてく歩いてった。今すぐ駆け出していって、中年太りのおばさんチックに脂肪のたっぷりついた背中を蹴っ飛ばしてやりたい。人目があり過ぎる放課後の昇降口で、そんなこと絶対無理だけど。いじめは楽しいけど先生にチクられたらたまらない。

「せっかく構ってやってんのにあっさり無視してくれちゃって。文乃のくせに生意気。最後のあの目、何? マジで」
「まぁまぁ、しょうがなくない? あいつ、お腹でも痛かったのかもしんないじゃん。いじめられてるどころじゃなかったんだよ、きっと」

 のんびりした明菜の声が腹立たしい。何それ、あんた文乃の味方なの? あんな奴かばうとかどういうつもり? 感情のまままくしたてようとしたら桃子に遮られた。

「ねぇねぇ、気分直しにクレープ食べに行かない?」
「おっいいね、ちょうど今、ブルーベリーキャンペーンってのやってるんだってよ」

 和紗が素早く乗っかった。誰からともなく足を動かし昇降口を出る。今の不快な出来事をさっさと忘れようとするようにあたしの怒りを無視するように、早口で紡がれる会話。

 苦手だ、このムード。たしかに、一年の頃から同じクラスでいつもつるんでた明菜たちと、あたしと鞠子の二人とじゃあ、どうしたって距離がある。でも、一学期の始業式の朝、「ねぇねぇ、周防さんだっけ? その髪の毛超カワイイー! どうやって巻いてんの?」なんて目を輝かせながら話しかけてきたのは明菜たちのほうなのに。

あたしの髪型とかメイクとか制服の着崩し方とか、なんでもカワイイ、カワイイって真似したがって、文乃いじめを始めたらきゃあきゃあ面白がってあっさりいじめに加わって。ところが最近、どっちにも飽きてきたのかすぐこうして三人だけのおしゃべりが始まる。

幼稚園からずっとみんなの中心にいたけれど、こんな思いをするのは初めてだ。中学二年生は思春期まっさかりで、思春期は大人に近づいてる時期だって保健体育で習った。大人になったら、顔が可愛いとかいじめをするとかだけじゃ、みんなの中心にはいられないんだろうか。

 ありえない。そんなの、認めない。明菜は分厚い化粧でごまかしてるけど実はすっぴんがブサイクで、和紗は中二になってもまだスポーツブラしかつけたことがない超貧乳、桃子に至っては一年の時に先輩とエッチしたのを事あるごとに自慢してくる、ウザいヤリマン女。つまり三人とも、あたしより「下」だ。「下」のくせにあたしに飽きるとか、あたしを馬鹿にするとか、許さない。