文乃をいじめてる時、頭の裏で白い花火がぱちぱちはじける。

かあぁ、とあたしを内側から火照らせる、赤よりも青よりも温度の高い真っ白。栄嗣と手を繋いだりキスしたりする時あたしの中心温度はかああぁっと急上昇するけれど、それよりもっとずっと強烈で思いっきり甘いチョコレートや外国製のどきつい色のキャンディーみたく、あたしをやみつきにさせる光だ。どっちも経験ないけれど、エッチや危険ドラックにハマるのと似たような感じかもしれない。

 目の前の文乃は脱いだ上履きを自分のゲタ箱に突っ込もうとしてその直前でやめた、中途半端な姿勢で固まってこっちを見ている。この世の嬉しいこと楽しいことをすべて諦めた、今夜首をくくってもおかしくないような目があたしに焦点を合わすと、白い花火がぱちぱち脳内でスパークする。

いじめは絶対しちゃいけない、人間として最低の行為だなんてきれい事、誰が言い出したんだか。こういう暗いブスを、つまり教室というヒエラルキー社会の最下層の人間をいたぶるほど、面白いことってない。いじめが楽しいのは人間誰もが持ってる当たり前の感情なのにきれい事でそれを押さえつける、馬鹿じゃないの?

 文乃をいじめたって誰に迷惑かけるわけでもないし法律にも違反してない。

「あれー、高橋さん、その上ばきどうしたの? 穴だらけじゃん。そういうオシャレ? 高橋さん的にはそれが流行の最先端だったりするわけぇ? それともああそうか、わかった、高橋さん水虫なんでしょ……」

嫌味ったらしい言葉を連ねるあたしの背中で、明菜たちが笑いを押し殺してる。この瞬間がすごく好き。みんな、喜んでる。たとえ、いじめはいけないだの文乃が可哀想だの思ってたとしたって、そんなの心の表面でのこと。本音では楽しくてしょうがないはず。自分が優位に立ってることを確認できて、教室の中の「上」と「下」が他のどんな時よりはっきりするいじめは、最高のエンターティメントだ。

 エンターティメントの道具になった文乃はしばらくどんよりした目であたしたちを見ていた後のろのろ動き出した。今朝あたしたちの手で穴だらけにされた上履きをゲタ箱に突っ込み、代わりに薄汚いピンクのスニーカーを取り出す。昇降口に向かって二、三歩足を進めたところで何かを思い出したように振り返った。怒りも悲しみもない、静かでどんより暗い瞳が、あたしを見る。

 背中のくすくす笑いがぴたり止まって、頭の中でスパークしてた花火がスッと消えた。無意識のうちに舌打ちする。