なのにいいことをした後のすがすがしい気持ちなんてまったくない。あんなに近くにいて、それでも親友じゃなかったこと。エリサをこんなに簡単に突き放せてしまうこと。

 エリサに嫌われたくなかった。みんなの中心のエリサと一緒にいれば安心だし、もともと引っ込み思案なあたしは自分の力で友だちを作る勇気もなかった。常に顔色を窺い機嫌を取り正面からぶつかり合うことを避け、あれこれ我慢して、一緒にいた。小一の頃から。

 上っ面だけの薄っぺらい友情だったのに、エリサと過ごした七年半の重みはたしかなもので、ズンと肩にのしかかってくる。最後に見たエリサ。違うよ、と言った時のエリサをどう表したらいいだろう。あんなに痛々しくて哀れで、女王様っぽさの欠片もなくて。

 高いプライドや自己中さの鎧の奥には、もろくて孤独で無防備な女の子が隠れてた。七年半も一緒にいてその最後の時、気付いてしまった。気付かないほうが楽だったのに。

「やっぱさ、いじめってよくないよね? そりゃ文乃みたいなの、いじめられてもしょうがないけど、だからっていじめるのはやっぱ、ダメじゃん? そんなことしたって文乃が変われるわけじゃないんだもん」

 明菜の言葉に和紗がこくこく頷き、桃子が明菜いいこと言う! とはやし立て、明菜は得意そうに鼻の頭をかいた。

 いじめをしない子が言ったら、今のは立派な意見に聞こえただろう。でも、今こんな立派な意見を共有するのは、エリサと同じじゃないって、自分はいじめの加害者なんかじゃないって、ただ一人の悪者に踊らされてただけだって、思いたいからだ。ここにいる誰も、いじめをした事実から、自分の罪から逃げて、振り返ろうとしない。そしてあたしも。

「ねぇー、今から気分直しにマック行こ。エリサと友だちじゃなくなった記念ね」

 桃子が言って、明菜と和紗が賛成! と声を合わせた。

 エリサはまだ、トイレにいるんだろうか。そして文乃は。あの後二人はどうなった?

 いや、考えたって仕方ない。むしろ考える必要ない。だって、あたしは別に悪くない。単にエリサと友だちだっただけで、たまたまあの子の自己中に巻き込まれただけ。文乃がいじめられるのは文乃のせいだから、あたしたちがやらなくたってきっと別の誰かがしていたこと。そう、あたしは悪くない悪くない悪くない。

 これから何度となく繰り返すことになるその呪文を、口の中で呟いた。