和やかなムードのまま四人でトイレを出た。教室に戻ると、さっきまでサシで向かい合ってたエリサと増岡を、小松崎と山吹と黒川が囲んでる。クラスでもいっとう目立つ見目のいい男子グループに囲まれてる美少女ギャルは、傍目から見るとやっぱり女王様だった。
「三川ぁ、溝口って結婚してたよなぁ?」
小松崎が明菜に大声でそんなことを言う。そういえばこの二人って一年の頃同じクラスで、その担任が理科の溝口だったっけ。どうやら男子たちプラスエリサの会話のトピックは、先生の噂話らしい。
「してたしてた! 子どももいるんでしょー中学生の」
小松崎たちに歩み寄りながら明菜が答える。えっと和紗が目を丸める。
「中学生? うそ、おっきくない? 溝口先生ってまだ三十半ばくらいじゃない、そんなに早く結婚したの?」
「それがさぁデキ婚だったんだって。一年の時なんかの授業でその話してたよ、ねぇ小松崎」
「すごいねーあの顔でデキ婚?」
桃子が言って、みんなあの顔でってひどっ、と一斉に笑い出す。さらにあの先生とあの先生は実はデキてるらしいとか、養護の先生に彼氏がいて友だちがデート現場を目撃したとか、どこまでほんとだか嘘なんだかわからない、ほんとでも嘘でもどっちでもいい話題が次々飛び出す。
ハイテンポで進行するおしゃべりはエリサを置いてって、さっきまで男子たちの中心にどかっと座ってたエリサはいつのまにか隅っこに追いやられ、つまんなそうに携帯をいじっていた。やがてぱちん、とやたら大きな音をさせてフリップを閉じ、栄嗣んとこ言ってくる、と言い残して教室を出て行く。
エリサがいなくなって一瞬、妙な沈黙があった。翻る短いスカートが教室を出ていくのを見届け、その足音が完全に聞こえなくなった頃山吹が切り出す。
「朝のやつ、マジびっくりしたよなー。俺引いたわ、周防に」
その一言を皮切りに、みんな目の色を変えて次から次へと会話に乗っかっていく。だよねだよね!? と明菜は顔だけ真剣にして、声はなんか嬉しそうだった。
「だよね!? うちらももう、ビビっちゃった。犬のウンコ入れとくとかさー、よく思いつくよね」
「どうせマンガかなんかで読んだんだろ、周防って現実とそうじゃないのとの区別ついてなくね? 危ないよな、そういうのって。頭イカれてんじゃねーの」
黒川の一言にみんなが頷いた。足がすくんだ。エリサがみんなに悪口を言われてる。悪口を言うことはあっても言われることは滅多になかった、あのエリサが。表面上は友だちをやっている相手から。
自分が言われているわけでもないのに、なぜかあたしがビビっていた。みんなの変わり身の早さに、仲間うちでのポジションがこんなにあっさり変わってしまう中学二年生の人間関係の危うさに、ビビったのだ。桃子がこの際だからと言わんばかりにまくしたてる。
「正直エリサ、時々ウザいんだよねー。なんかわがままでさ、お嬢様って感じ」
「お嬢様じゃねぇよあいつ、今にもつぶれそうなぼっろい食堂の娘だよ。周防食堂っていってさ、看板の字半分剥げてんの。メニューだってかつ丼とカレーぐらいしかないぜ」
さっきまでエリサとカップルに見えるぐらい仲良くしゃべってた増岡が意地悪く顔を歪めた。うっそー、と明菜と和紗と桃子、女子三人が声を重ねる。
「三川ぁ、溝口って結婚してたよなぁ?」
小松崎が明菜に大声でそんなことを言う。そういえばこの二人って一年の頃同じクラスで、その担任が理科の溝口だったっけ。どうやら男子たちプラスエリサの会話のトピックは、先生の噂話らしい。
「してたしてた! 子どももいるんでしょー中学生の」
小松崎たちに歩み寄りながら明菜が答える。えっと和紗が目を丸める。
「中学生? うそ、おっきくない? 溝口先生ってまだ三十半ばくらいじゃない、そんなに早く結婚したの?」
「それがさぁデキ婚だったんだって。一年の時なんかの授業でその話してたよ、ねぇ小松崎」
「すごいねーあの顔でデキ婚?」
桃子が言って、みんなあの顔でってひどっ、と一斉に笑い出す。さらにあの先生とあの先生は実はデキてるらしいとか、養護の先生に彼氏がいて友だちがデート現場を目撃したとか、どこまでほんとだか嘘なんだかわからない、ほんとでも嘘でもどっちでもいい話題が次々飛び出す。
ハイテンポで進行するおしゃべりはエリサを置いてって、さっきまで男子たちの中心にどかっと座ってたエリサはいつのまにか隅っこに追いやられ、つまんなそうに携帯をいじっていた。やがてぱちん、とやたら大きな音をさせてフリップを閉じ、栄嗣んとこ言ってくる、と言い残して教室を出て行く。
エリサがいなくなって一瞬、妙な沈黙があった。翻る短いスカートが教室を出ていくのを見届け、その足音が完全に聞こえなくなった頃山吹が切り出す。
「朝のやつ、マジびっくりしたよなー。俺引いたわ、周防に」
その一言を皮切りに、みんな目の色を変えて次から次へと会話に乗っかっていく。だよねだよね!? と明菜は顔だけ真剣にして、声はなんか嬉しそうだった。
「だよね!? うちらももう、ビビっちゃった。犬のウンコ入れとくとかさー、よく思いつくよね」
「どうせマンガかなんかで読んだんだろ、周防って現実とそうじゃないのとの区別ついてなくね? 危ないよな、そういうのって。頭イカれてんじゃねーの」
黒川の一言にみんなが頷いた。足がすくんだ。エリサがみんなに悪口を言われてる。悪口を言うことはあっても言われることは滅多になかった、あのエリサが。表面上は友だちをやっている相手から。
自分が言われているわけでもないのに、なぜかあたしがビビっていた。みんなの変わり身の早さに、仲間うちでのポジションがこんなにあっさり変わってしまう中学二年生の人間関係の危うさに、ビビったのだ。桃子がこの際だからと言わんばかりにまくしたてる。
「正直エリサ、時々ウザいんだよねー。なんかわがままでさ、お嬢様って感じ」
「お嬢様じゃねぇよあいつ、今にもつぶれそうなぼっろい食堂の娘だよ。周防食堂っていってさ、看板の字半分剥げてんの。メニューだってかつ丼とカレーぐらいしかないぜ」
さっきまでエリサとカップルに見えるぐらい仲良くしゃべってた増岡が意地悪く顔を歪めた。うっそー、と明菜と和紗と桃子、女子三人が声を重ねる。