言いながら表紙に目をやるとあたしでも知ってる有名なマンガだった。今度深夜枠でドラマ化もされるっていう話題作で、高校生のいじめを題材にしているやつ。いじめのシーンがリアルで残酷なことで物議をかもした名作だ。

 美少女の顔をイキイキと暗い笑いが侵食していて、大人びた顔立ちがいっそう妖しく歪む。エリサは顔を上げないまま上の空のように答える。

「うん、面白いよ。とっても」

 やたらゆっくり発音されたとっても、には妙なアクセントがついていて、意地悪そうなエリサのにやけ顔からつい目を逸らしてしまう。

 自分がいじめに関わるようになってからいじめを題材にしたマンガやケータイ小説を直視できなくなった。フィクションの世界に描かれているいじめはあたしたちが文乃にすることよりずっと残酷でリアルだから。

ちょっと前のことだったと思う、今エリサが読んでるいじめマンガが載ってる雑誌を明菜が学校に持ってきて、読みながらそんなのありえないよねー、普通誰もここまでしないしー、ってみんなで笑ってたけど、誰も目が笑ってなかった。エリサだけはあんまり興味なさそうに片手で携帯をいじりつつ、もう片方の手でページをぺらぺらやってたけど。まだ文乃いじめが始まってまもなくて、そんなにエスカレートしてない頃だった。

フィクションの中、実際の姿からかけ離れて大胆にデフォルメされていればいるほど、なぜか真実に近いような気がしてしまう。マンガに描かれた冷酷非道ないじめっ子たちの姿が鏡に映った自分らみたいで、そうじゃない、あたしたちはほんとは違うのにと否定したくて目を瞑る。

だってあたしも明菜たちもここまでひどい人間じゃない。

 だけどエリサにはそういう心の動きがなくて、今あたしの目の前でマンガを読みながら文乃をいじめてる時みたいにニヤニヤしている。

 そういえば二年生になったばかりの頃、こんなことがあった。明菜たちいつもの五人で一緒に帰ってて、いきなり和紗があっと立ち止まり顔をひきつらせた。誰からともなくどうしたの? と足を止め青ざめて震えてる和紗を振り返ると、部活焼けした黒っぽい手がぶるぶる震えながらアスファルトの一点を指さす。軽トラが作る影に隠れてて、最初誰も気づかなかったんだ。

猫が死んでいた。ただし普通の死に方じゃなかった。顔が半分潰れて目玉が飛び出し、内臓が引きずり出されて赤い蛇がお腹に食らいついてるように見えた。あまりにひどい死体を目の前に明菜たちはしばらく言葉を失ってたけど、エリサだけはいつもと変わらない目でケラケラ笑ってた。