擬音をつけるならふぁー、よりむしろぐわぁー、のほうがしっくりきそうな欠伸が喉をいっぱいに広げる。夕べは三時まで寝れなくて、何度も読み返してストーリーは頭の中にすっかりインプットされてるためもう大して面白くもないマンガを読んでたから、今日は朝からものすごく眠い。今すぐベッドに戻りたいくらい。

オヤジくさい欠伸をしたあたしに明菜と和紗と桃子、六つの目が一気に集中する。始業前、いつものようにエリサの机に五人で集合して輪を作ってた。一日の始まりがこれだけ眠いだなんて先が思いやられる。なんで授業が六時間もあるんだろう。

「鞠子ってば何その欠伸、おっさんみたい」

大げさにケラケラ笑ってる明菜。今の欠伸、そんなに女を捨ててただろうか。思春期女子にしては恥じらいがなさ過ぎだったろうか。思わず頬を熱くしたあたしに、和紗がおかしさをこらえきれないって顔をしながらも優しい言葉をかけてくれる。

「大丈夫、眠い? 寝不足?」
「うん、ちょっと」
「ねぇねー鞠子はどれ? 増岡と小松崎と山吹と黒川、四人のうちであえて一人選ぶならさ。あくまで仮定の話だから仮定の!」

 桃子がノリノリでまくしたてる。さっきから明菜たち三人はこの話題で盛り上がってた。一番顔がいいのは増岡、でも性格で選ぶなら山吹、小松崎はノリはいいけど地味顔だし黒川は女の子とっかえひっかえしてるっぽいからパス、とか。みんな特定の誰かに恋愛感情があるわけじゃないし「あくまで仮定」だから言いたい放題だ。

「ええー。誰だろ……あえて言うなら、うーん、増岡かなぁ」

 そう言うと三人が一斉に色めきだった。ちなみに明菜と和紗が山吹派で桃子が増岡派、これで山吹派と増岡派が二対二になった。

「ほらねー鞠子も増岡派だって! やっぱ時代は増岡なんだよ」
「えーでもあいつ、時々ムカつかない? なんかエラそうでさ。だから顔良くても彼女いないんだよ」
「彼女ならいたよ、一学期に。すぐ別れてたけど。あと山吹も三年と付き合ってるし」
「えー嘘っ山吹彼女いんの? 知らなかったぁ。しかも先輩って、マジ? 誰よ」

 明菜と桃子がにわかに盛り上がりやや取り残され気味の和紗がちょっと困ったような顔で目配せしてくる。目配せを返しながら一人机に座って会話から外れてるエリサの様子を窺うと、エリサはあたしらの声なんて聞こえてないような熱心さでマンガに目を落としていた。面白いシーンがあったのか時々口元がにやっと曲がる。そのにやっ、が文乃をいじめてる時の表情によく似てて背筋に落ち着かないものを感じた。

「エリサ、それ面白いー?」