「和紗、今日も部活サボる? サボるでしょ?」
「サボる」
「だよねー。行ったって愛しの鈴木先輩、もう引退しちゃっていないもんねぇ」
別にそういう意味じゃないしと和紗は頬を染めて否定し、明菜はまたまたーと部活のお蔭でみっしり筋肉が詰まった和紗の二の腕を小突く。桃子は二人を見ながらス笑っていてエリサは三人の一歩前、あたしの隣で、考え事でもしているのかぼんやり微笑んでいた。
帰りのHRが終わった廊下をゲタ箱目指しだらだら歩くあたしたち。周りは部活に向かう体操着姿や、あたしらみたいにおしゃべりに夢中な女子、ガキっぽくじゃれ合って大騒ぎする男子とかでいっぱい。もうだいぶ秋が深まっていてこの時間既に太陽は低く、窓を突き抜けるオレンジ色の西日がうるさい。
既に練習が始まっているらしく、吹奏楽部が奏でるホルンだかサックスだかの音が校舎の奥からぼんやり漂ってきてた。アエイウエオアオカケキクケコカコって一秒の狂いもなくぴったりそろった声は演劇部の発声練習だ。
ゲタ箱のところで今まさに帰ろうって文乃とバッタリした。和紗があ、と小さく声を上げ、それが合図のようにみんなおしゃべりを一時停止させて文乃に注目する。途端にぼんやり笑ってたエリサの顔がはっきり意志を持ち、暗い興奮にぱっと華やぐ。文乃のほうもこっちに気付いてゲタ箱に上履きを突っ込もうとした手を腰の当たりの中途半端な位置で止めたまま、汚いニキビ面をあたしたちに向けていた。
エリサがまるで友だち同士のような自然な足取りで文乃に歩み寄り、上履きを指さす。
「あれー、高橋さん、その上ばきどうしたの? 穴だらけじゃん。そういうオシャレ? 高橋さん的にはそれが流行の最先端だったりするわけぇ? それともああそうか、わかった、高橋さん水虫なんでしょ。だから風通しよくしたくて、上履きにそんなにいっぱい穴開けちゃったんだよね、そっか、水虫対策かー」
明菜も和紗も桃子もエリサの嫌みったらしい言葉に大ウケで、俯いて声を殺して笑ってる。あたしもつい笑っちゃう。文乃いじめの醍醐味は「エリサが今日はどんな嫌味で文乃を攻撃するか」ってところかもしれない。
もちろん、上履きを穴だらけにしたのはあたしたちだ。今朝の始業前、「文乃の上履き、拉致ってきちゃった」って明菜がニヤニヤしながらエリサに上履きを差し出して、桃子が教室の備品棚から金色の画鋲がぎっしり詰まった箱を拝借してきて、みんなで騒ぎながら文乃の上履きに画鋲を刺しまくった。
途中から陸上部の朝練が終わった和紗や登校してきた増岡たちも加わり、最後に画鋲がびっしり刺さった上履きを文乃のゲタ箱に戻しに行ったのがあたし。数分後、職員用スリッパを履いてクラスに入ってきた文乃が机の上で背筋を丸めつつ、画鋲をひとつひとつ抜く作業をしてるのを、みんなで遠くから笑って見てた。エリサが「高橋さん、大変そうだねぇ。手伝おっかぁ」って声をかけると、みんな吹き出しそうになってたっけ。
「サボる」
「だよねー。行ったって愛しの鈴木先輩、もう引退しちゃっていないもんねぇ」
別にそういう意味じゃないしと和紗は頬を染めて否定し、明菜はまたまたーと部活のお蔭でみっしり筋肉が詰まった和紗の二の腕を小突く。桃子は二人を見ながらス笑っていてエリサは三人の一歩前、あたしの隣で、考え事でもしているのかぼんやり微笑んでいた。
帰りのHRが終わった廊下をゲタ箱目指しだらだら歩くあたしたち。周りは部活に向かう体操着姿や、あたしらみたいにおしゃべりに夢中な女子、ガキっぽくじゃれ合って大騒ぎする男子とかでいっぱい。もうだいぶ秋が深まっていてこの時間既に太陽は低く、窓を突き抜けるオレンジ色の西日がうるさい。
既に練習が始まっているらしく、吹奏楽部が奏でるホルンだかサックスだかの音が校舎の奥からぼんやり漂ってきてた。アエイウエオアオカケキクケコカコって一秒の狂いもなくぴったりそろった声は演劇部の発声練習だ。
ゲタ箱のところで今まさに帰ろうって文乃とバッタリした。和紗があ、と小さく声を上げ、それが合図のようにみんなおしゃべりを一時停止させて文乃に注目する。途端にぼんやり笑ってたエリサの顔がはっきり意志を持ち、暗い興奮にぱっと華やぐ。文乃のほうもこっちに気付いてゲタ箱に上履きを突っ込もうとした手を腰の当たりの中途半端な位置で止めたまま、汚いニキビ面をあたしたちに向けていた。
エリサがまるで友だち同士のような自然な足取りで文乃に歩み寄り、上履きを指さす。
「あれー、高橋さん、その上ばきどうしたの? 穴だらけじゃん。そういうオシャレ? 高橋さん的にはそれが流行の最先端だったりするわけぇ? それともああそうか、わかった、高橋さん水虫なんでしょ。だから風通しよくしたくて、上履きにそんなにいっぱい穴開けちゃったんだよね、そっか、水虫対策かー」
明菜も和紗も桃子もエリサの嫌みったらしい言葉に大ウケで、俯いて声を殺して笑ってる。あたしもつい笑っちゃう。文乃いじめの醍醐味は「エリサが今日はどんな嫌味で文乃を攻撃するか」ってところかもしれない。
もちろん、上履きを穴だらけにしたのはあたしたちだ。今朝の始業前、「文乃の上履き、拉致ってきちゃった」って明菜がニヤニヤしながらエリサに上履きを差し出して、桃子が教室の備品棚から金色の画鋲がぎっしり詰まった箱を拝借してきて、みんなで騒ぎながら文乃の上履きに画鋲を刺しまくった。
途中から陸上部の朝練が終わった和紗や登校してきた増岡たちも加わり、最後に画鋲がびっしり刺さった上履きを文乃のゲタ箱に戻しに行ったのがあたし。数分後、職員用スリッパを履いてクラスに入ってきた文乃が机の上で背筋を丸めつつ、画鋲をひとつひとつ抜く作業をしてるのを、みんなで遠くから笑って見てた。エリサが「高橋さん、大変そうだねぇ。手伝おっかぁ」って声をかけると、みんな吹き出しそうになってたっけ。