エリサはあたしと同じでその頃から勉強はあんまり得意じゃなかったけど、おちゃめないたずらが大好きだった。水飲み場の水をわざと勢いよく出して水遊びしたり、うさぎ小屋のうさぎを校庭に離したり、通学路に貼ってある選挙ポスターに落書きしたり。男子とも一緒になってアクティブに遊ぶし、女子の中では一番よく先生に怒られてたけど、そんなエリサに惹きつけられる子も結構いて、その子たちの頂点にいるのがあたしだった。エリサの言うことはなんでもよく聞いてたら、すぐに気に入られた。


 知り合ってからの七年半、ほとんど毎日顔を合わせて、ほとんどいつも一緒にいた。小六の秋、お兄ちゃんのものだっていうエロ本をドキドキしながら開いたのはエリサと。中一の夏、ドラッグストアで買ってきたヘアカラーで初めて髪を染めたのもエリサと。もうすぐ中二になるっていう春休み、親にバレないようにこっそりピアスを開けたのもエリサと。


エリサと一緒にいるのはあたし流の処世術だ。時に、買ったばかりのお気に入りのペンケースをどうしても自分のと取り替えっこしてほしいとか、好きな先生にバレンタインチョコを渡したいけど恥ずかしいから代わりに行ってきてくれとか、どうしようもないわがままに振り回されて嫌な目に遭っても、我慢して一緒にい続けた。


中学生になった今でこそそういうわがままはだいぶマシになったけど、小学生の時はなかなかにひどくて、そのせいであたしと違って我慢しない誰かから悪意を向けられることもあった。その誰かを睨み返すのがエリサだ。小四の時「生意気だから」ってエリサの給食のカレーに消しゴムを入れた子は、後で習字の時間に頭から墨汁をぶっかけられギャピーと泣いて、以来まったくおとなしくなった。


 なんといってもアイドル並みの美少女でその上気も強いとなれば、最強だ。男子たちはみんな可愛いエリサの味方だったし、女子だってエリサを疎んじる子も中にはいるけど、今でいうと明菜とか和紗とか桃子とか、エリサに憧れて寄ってくる子がいつも必ずいた。


エリサについていけば子ども社会にはつきもののいじめや仲間外れに遭うことはないし、可愛くてみんなの中心のエリサにくっついてるだけで、あたしまでちょっと可愛くなれた気がしたし、みんなの中心にいれた。


エリサがいじめをやるのは今に始まったことじゃない。小五と小六の時のターゲットは、学年中から嫌われてたキモイ男子。顔はヒキガエルみたいで体はぶよぶよで、机やロッカーは中でゴキブリを飼ってるっていう噂が広まるぐらいごちゃごちゃ物が溢れ、汚かった。何かにつけて言い訳をする性格もみんなの反感を買った。


男子たちと一緒になって、そいつをいじめた。壁に貼ってある遠足のスナップでそいつを見つけて画鋲で顔に穴を空けたり、みんなにプリントを配る時そいつだけ飛ばしたり。聞こえよがしに悪口も言ったし、人気のない給食のおかずはそいつのお皿に集まった。


男子たちはプールの時間に足を引っ張って溺れさせたり、掃除の時間にモップで殴ったり、もっとひどいこともしてたから、エリサやあたしたちのいじめなんて、そういうののおまけみたいなもんだった。いじめられてもいつもニヤニヤ笑ってて、その笑顔が更にムカついたその男子は、いじめから逃げたのか卒業後は私立の中学に行ってしまった。どうせ中学でもいじめられてるんだと思う。