エリサと友だちになったのは小一の教室。黒板には「入学おめでとう」とピンクのチョークと桜が描かれていて、壁は折り紙で作ったカラフルな輪飾りでデコレーションされてた。小学校に上がるのと同時に親の仕事の都合で引っ越してきたあたしは、見知った顔が一人もいない教室で焦ってた。

一日目なのにみんなさっさと同じ幼稚園出身の子を見つけて集まって、既にいくつかのグループが出来上がってる。しかし遠い遠い幼稚園から来たあたしには当然知り合いなんておらず、誰からも声をかけられずに一人俯いてた。

 そんなところにごくごく自然に、ずっと前からの友だちみたいに話しかけてきたのが、エリサだった。

「いいなぁそのピンクの服、可愛い。エリサもピンクが良かったんだけど、お母さんが入学式だから紺にしなさい、きっとみんな紺着てるからって」

 振り返って、驚いた。その時のエリサは当然髪を巻いてないし化粧なんてしてなかったけど、それでもぱっちりした目や長い睫毛や、血管が透けそうなミルク色の肌に南の島のフルーツみたいなふっくらした唇、どこをとってもお人形さんみたいだったから。

本人は気に入ってないという紺の式服だって、胸のところで結んだモンシロチョウを思わせる白いリボンもピンクのチェックのスカートも、みんなエリサの可愛さにぴたりとハマってその美しさを倍増させていた。かえってエリサが「可愛い」と言ったあたしの桜色の式服のほうが、お姉ちゃんのお下がりでサイズは微妙に合ってないし、デザインも時代遅れでダサかったと思う。

「幼稚園、どこなの?」
「わ、わかさぎ幼稚園」

 知らない子と初めて話す上、相手がびっくりするほど可愛い子で、声が裏返った。今でこそだいぶ社交的になったけど、この頃のあたしは引っ込み思案のはにかみ屋だった。

「わかさぎ幼稚園?何それ、知らないなぁ」
「群馬の幼稚園だから」
「えっ何、群馬から来たの?群馬ってサファリパークがあるところでしょう、めっちゃ遠いじゃん、すごーい。ねぇ、名前何?」

 可愛いだけじゃなくて、声が大きくてしゃべり方もハキハキしてて、すぐにわかった。この子はみんなの人気者になる子だな、って。