時々見た目で差別されるから、ここで強調しとく。あたしたちがやるのは化粧と先生に目をつけられない程度にちょこっと髪の色を抜くことと制服のカスタマイズと、一般的な中学生より少し進んだ恋愛、そしてヒヨッ子レベルの可愛らしいいじめ。断じて不良なんかじゃないのだ。

 明菜と桃子が、ほんとになんもないの? とかじゃあ先輩とキスしたいって思わないのー? とか、両側から和紗を問い詰めて和紗は首から上をトマトみたいにしてる。そんな三人からちょっと離れたエリサがあたしににじり寄ってきて、耳に口を近づける。シャンプーだか制汗剤だか、薄くつけたコロンだかの匂いがふんわり鼻腔を刺激した。

「ねぇ、どう思う? さっきの文乃の反応」
「昼休みのこと言ってるの? たしかによくもまぁ、あそこまでされて黙ってられるよね。あたしならキレてるもん。まぁそこでキレたりやり返したり一切しないのが、いじめられ体質ってか。イタいよねー」

 エリサの目つきが尖る。あたしが期待外れの言葉を口にすると、エリサはいつも露骨なぐらい不快感を顔に出す。

「鞠子さ、つまんないとか思わないの? あたしはその、文乃をキレさせたりやり返させたりがしたいの。そこでうちらに立ち向かってきたとこをけちょんけちょんにして、そんなのムダだって思い知らせたいわけ。そのほうが面白くない?」

 さっきの悔しさがまだ生々しく残っているのか、不機嫌だ。いちごミルクの色に塗った指先が髪の毛をいじる仕草が止まらない。イライラしてる時や何か嫌なことを考えてる時、エリサはよく髪の毛をいじるって、この子と付き合いの長いあたしは知ってる。

「文乃、石みたいじゃん。何やっても泣かないし怒んないし、蒼衣みたくニヤニヤ笑ってごまかしたりもしないし。あんなんじゃ、マンネリ化しちゃうよ。最近あいついじめても、みんなあんま楽しそうじゃないしさ」
「そんなことないよ、みんな楽しんでるって」

 このままだとまた文乃いじめがまたエスカレートしそうで、それはヤバイからなんとかエリサをなだめなきゃいけない。しかしあたしの気持ちはまったく伝わらず、エリサはイライラしつつも少し憂鬱そうに唇を尖らせる。