「シュウウゥート!!」
増岡が叫びながら体操着袋を蹴り上げる。狙った先はゴール代わりの黒板。キーパー役の小松崎がジャンプして体操着袋を手の平で跳ね返し、周防エリサが歓声を上げる。
「コマ、やるぅ! さすがバレー部、恰好いいー! ナイスレシーブっ!!」
小松崎がちらっとエリサを振り向いて、八重歯を五ミリだけ出して笑う。小松崎も増岡も彼らと同じグループの山吹も黒川も、みんなエリサのことがちょっと好きだ。その好きはたとえば告白したいとか夜ごと思いを募らせるとかいう好きとは違うし、第一エリサには隣のクラスに中沢くんって彼氏がいるけれど、このクラスにエリサを好きじゃない男子なんているんだろうか。
エリサは大人びた化粧がよく似合う美人だし胸だって中二なのにDカップあるし、たしかにわたしと同じ十四歳なのに高校生みたいに見える。そんなエリサに微笑みかけられたり応援されたりしたら、どんな男の子だって悪い気はしない。
そしてそういうエリサだから、あたしは七年半もエリサの親友をやっている。
クリーム色の体操着袋がぽんぽん跳ねる。エリサに煽られ、三川明菜が横井和紗が相原桃子が、口々に叫ぶ。
「いけぇー増岡っ黒川っ! コマと山吹に負けるな、サッカー部でしょっ!?」
「サッカー部の意地見せてー!!」
「バレー部も頑張れー!!」
小松崎と山吹のバレー部チームと増岡と黒川のサッカー部チームに分かれての対決、教室の前の黒板がサッカー部チームのゴールで、後ろの小さい黒板がバレー部チームのゴール。種目がサッカーでサッカー部には有利な代わりに、手を使っていいのはバレー部だけってことになってる。
廊下側から数えて三列目の席五つを廊下側に四列目の席を全部窓側に寄せて、教室のど真ん中に幅二メートルくらいの細長いコートを即席で作ってるけれど、ほんとに狭いコートだから時々中二男子の大きな体が机や椅子に当たって、がちゃがちゃ音を立てる。昼休みなので教室内にいるのはエリサと増岡のグループを除いたらほんの数人だけど、その数人からそろいもそろって白い視線を浴びるあたしたち。
頭を寄せ合って宿題の写しっこをしている近江希重さんのグループが視界の端っこにいて、クラス委員の上原さんのしかめっ面が高ぶる心に水を差す。しかめっ面の理由は単にこっちがうるさいからだけじゃなくて、優等生な上原さんと不良っぽいエリサは折り合いが悪くて、対立してるわけじゃないけどグループ同士少し距離があるっていう裏事情のせいだけでもなくて、クリーム色の体操着袋が高橋文乃のものだからだと思う。
そもそも、こんな子どもっぽい遊びが始まったのはエリサのせいだ。昼休み開始早々、「高橋」って書いてある体操着をエリサが増岡たちに差し出し、「ねぇねぇ、これあげるから増岡のシュート見せてよー」って言ったのがきっかけ。
文乃にそれほどひどいことをしてるとは思わない。体育館裏やトイレに連れて行って殴ったり蹴ったりしてるわけじゃないし、万引きを命令したりお金をとってるわけでもない。あたしたちがすることっていったらせいぜい上ばきやハンカチを隠したり、教科書に接着剤を塗りつけて開けなくしたり、給食の時に机をくっつけ合うのに文乃のだけ離してみたり。
そんな小学生レベルのいじめに立ち向かっていかず、黙っていじめられっぱなしの文乃のほうが、いじめの加害者としてはヒヨッ子レベルのあたしたちよりずっと問題あると思う。文乃があんなキモい顔をしてなかったら、性格が暗くなかったら、勉強が出来てトロくなかったら、普通にちゃんと友だちがいたら、同じ目には絶対遭わなかったんだから。
増岡が叫びながら体操着袋を蹴り上げる。狙った先はゴール代わりの黒板。キーパー役の小松崎がジャンプして体操着袋を手の平で跳ね返し、周防エリサが歓声を上げる。
「コマ、やるぅ! さすがバレー部、恰好いいー! ナイスレシーブっ!!」
小松崎がちらっとエリサを振り向いて、八重歯を五ミリだけ出して笑う。小松崎も増岡も彼らと同じグループの山吹も黒川も、みんなエリサのことがちょっと好きだ。その好きはたとえば告白したいとか夜ごと思いを募らせるとかいう好きとは違うし、第一エリサには隣のクラスに中沢くんって彼氏がいるけれど、このクラスにエリサを好きじゃない男子なんているんだろうか。
エリサは大人びた化粧がよく似合う美人だし胸だって中二なのにDカップあるし、たしかにわたしと同じ十四歳なのに高校生みたいに見える。そんなエリサに微笑みかけられたり応援されたりしたら、どんな男の子だって悪い気はしない。
そしてそういうエリサだから、あたしは七年半もエリサの親友をやっている。
クリーム色の体操着袋がぽんぽん跳ねる。エリサに煽られ、三川明菜が横井和紗が相原桃子が、口々に叫ぶ。
「いけぇー増岡っ黒川っ! コマと山吹に負けるな、サッカー部でしょっ!?」
「サッカー部の意地見せてー!!」
「バレー部も頑張れー!!」
小松崎と山吹のバレー部チームと増岡と黒川のサッカー部チームに分かれての対決、教室の前の黒板がサッカー部チームのゴールで、後ろの小さい黒板がバレー部チームのゴール。種目がサッカーでサッカー部には有利な代わりに、手を使っていいのはバレー部だけってことになってる。
廊下側から数えて三列目の席五つを廊下側に四列目の席を全部窓側に寄せて、教室のど真ん中に幅二メートルくらいの細長いコートを即席で作ってるけれど、ほんとに狭いコートだから時々中二男子の大きな体が机や椅子に当たって、がちゃがちゃ音を立てる。昼休みなので教室内にいるのはエリサと増岡のグループを除いたらほんの数人だけど、その数人からそろいもそろって白い視線を浴びるあたしたち。
頭を寄せ合って宿題の写しっこをしている近江希重さんのグループが視界の端っこにいて、クラス委員の上原さんのしかめっ面が高ぶる心に水を差す。しかめっ面の理由は単にこっちがうるさいからだけじゃなくて、優等生な上原さんと不良っぽいエリサは折り合いが悪くて、対立してるわけじゃないけどグループ同士少し距離があるっていう裏事情のせいだけでもなくて、クリーム色の体操着袋が高橋文乃のものだからだと思う。
そもそも、こんな子どもっぽい遊びが始まったのはエリサのせいだ。昼休み開始早々、「高橋」って書いてある体操着をエリサが増岡たちに差し出し、「ねぇねぇ、これあげるから増岡のシュート見せてよー」って言ったのがきっかけ。
文乃にそれほどひどいことをしてるとは思わない。体育館裏やトイレに連れて行って殴ったり蹴ったりしてるわけじゃないし、万引きを命令したりお金をとってるわけでもない。あたしたちがすることっていったらせいぜい上ばきやハンカチを隠したり、教科書に接着剤を塗りつけて開けなくしたり、給食の時に机をくっつけ合うのに文乃のだけ離してみたり。
そんな小学生レベルのいじめに立ち向かっていかず、黙っていじめられっぱなしの文乃のほうが、いじめの加害者としてはヒヨッ子レベルのあたしたちよりずっと問題あると思う。文乃があんなキモい顔をしてなかったら、性格が暗くなかったら、勉強が出来てトロくなかったら、普通にちゃんと友だちがいたら、同じ目には絶対遭わなかったんだから。