「にしても文乃ってゴミが似合うよねえ。ああやってるとどっちがゴミかわかんないもん」


 ハッキリ言う風花がハッキリ付け加えて、それがあたしがさっき考えたこととまったく同じだったから、やたら笑えた。暗い笑いが五人の間に伝染していく。


 エリサのグループによる文乃へのいじめは、一ヵ月半ぐらい前から自然発生的に起こった。難しい年頃のこと、いじめなんてしょっちゅうある。


でもいじめにもみんなに同情されるいじめとされないいじめとがあって、文乃の場合は同情されないいじめだった。可愛い子とか性格のいい子とか、つまりみんなに嫌われていない子だったら、誰かが横から入っていじめを止めようとしたかもしれない。


でも文乃はそういう子じゃない。文乃は雰囲気が暗くてクラスに友だちが一人もいないし、勉強も運動も出来ないし、顔なんて最悪だ。


やたらエラが張ってて、鼻の穴が妙に大きくて眉毛なんか毛虫を貼り付けたみたいで、痛そうに赤く腫れたニキビがそこらじゅうに散らばってる。


そんなクラスいちのブス、しかも暗くて孤独なブスがいじめられたところで、誰も同情なんかしない。エリサたちだけじゃなくって、みんなが文乃を嫌ってる。


何も悪いことをしなくたって誰かの気分を損ねるようなことを言わなくたって、文乃はただそこに「いる」だけで、とことん嫌われる子だ。


文乃の雰囲気が、文乃が放つ周りのもの全てをたちまち腐らせてしまうようなオーラが、みんなの「嫌い」の感情を刺激していた。


だから、文乃がエリサたちにいじめられていると、自分の中の残酷な心が満たされたみたいで、本当はやりたいけど出来ないことをエリサたちが代わりにやってくれてるようで、ちょっとスカッとする。可哀想だなんて全然思わない。てか、思えない。


「やっぱさ、いじめられる側にも悪いとこってあると思うんだよね」


 小声で言うとうんうんと風花が頷き、美晴と愛結と睦はあたしの次の言葉を待つような顔で黙ってた。視界の端っこにはまだゴミの山をあさってる文乃と、クスクス笑いを立てるエリサたちが映ってる。


「いじめられても黙ってて何も言い返さないからもっとやられるんじゃん? 嫌、やめてって、ちゃんと言やあいいのに。しかもさ今、あたしのことじーっと見たの、わかった?」


「わかったよ。文乃って時々、マジキモい目でひとのこと見るよね。キモすぎて鳥肌立つ」


 風花が自分の両肩を包んで、わざとらしく身震いする。愛結と睦が小さく笑った。


「ひとのことあんなふうに見るなっての。見られた亜沙実だって今、気分悪かったっしょ?
あれ、なんのつもりだろうね」


「助けてって意味でしょ。わたし、エリサたちにいじめられてる可哀想な人なのー。誰か助けてー、って捨てられた子犬の目のつもりなんじゃん?」


「それだけかなぁ」


 そこで美晴が横槍を入れて、風花と睦と愛結、三人分の視線が美晴に集中する。言葉を遮られたあたしはちょっとカチンと来て、つい声がきつくなった。