「言えないよ。希重は言えない」
「言うもん!」
「言えないったら言えない」
「言うったら言うもん!!」
「決まってる。希重は誰にも言えないんだよ」
「言うんだってば!!」


 叫びながら部屋を飛び出す。ゴミを跨ぎ越し、はじかれるように廃墟から走り出た。木の根によろめき枝に頭をぶつけ、必死で雑木林を走った。方向を間違えたのか、ここから舗道までは大した距離じゃないはずなのになかなかたどりつかない。鬱蒼とした雑木林が迷宮のようにひたすら続く。わたしは文乃の心という真っ暗な迷宮に捕らわれていた。


 我慢していた涙が一気に溢れて、涙に咽て溺れた人みたいな声が出る。逃げたのは、文乃の言うことがとても正しく聞こえたから。わたしの汚いところ、ずるいところ、文乃にズバリ言い当てられたのがショックだった。一番見られたくない人に、一番見られたくないものを見られてしまった。

 でも、本当にそれだけ? わたしは文乃の言う通り、自分のためだけに文乃を庇おうとしていたの? 自分が可愛いから、ただそれだけでいじめられてる文乃に優しくしたの?

 違う。わたしは今もどこかで、文乃を親友だと思ってる。

 周防さんを恐れる気持ち、文乃を助けられないもどかしい気持ち、文乃と親友だったことを恥じる気持ち……ごっちゃごちゃになった心の奥で、友情はすっかり埃まみれになって錆びついてるけど、埃を払って錆をこすり落とせばちゃんと輝いてた。

 でも文乃を変えてしまったわたしに、その宝物のような輝きを取り出す資格はない。

 うごぉー、と獣みたいな声で叫んでた。涙で目の前が見えなかった。