学校に着いてもあたしの殺意はおさまらない。イライラを抱えたまま教室に入ると目の前に高橋文乃がいて、不本意ながら目が合った。じとっと粘った湿気を含んでいる腐った魚の目。


 文乃は教室のゴミ箱をひっくり返して、中のものを床にばーっと広げていた。鼻をかんだ後の丸めたティッシュ、ルーズリーフの切れ端、お弁当に入ってたはずのバラン、お菓子を学校に持ってくるのは禁止されてるけど、ポッキーの空き箱も。


モノとしての役目を終えてみんなからいらないもの扱いされるようになったゴミたちを前にして、ぺたっと座り込んだ文乃。笑いたくなるほど違和感のない光景だった。文乃は、ゴミが似合う。


 そしてやり場のない殺意をぶつけるのに、こいつ以上に適した相手がいるだろうか。


「……邪魔なんだけど」


文乃を前にするといつも、自分のものかと疑うような冷たい声が出る。文乃はちょっと身体を引いて、でも視線は引かないで、瞳の中の濁った湿気みたいなどす黒い成分濃度をますます上げて、あたしを見つめてくる。


鳥肌が立ちそうな嫌悪感を覚え、素早く踵を返して自分の席へ。ククク、と押し殺した笑い声がする。あたしじゃなくて、あたしに邪魔扱いされた文乃に向けられたものだった。


廊下側から三番目の列、教室の一番前の周防エリサの席の周り、三川明菜に横井和紗に相原桃子、それに半田鞠子の五人が固まって、ゴミを広げて探し物をしている文乃を観察していた。


おおかた、ゴミ箱に文乃の教科書だかノートだかを突っ込んでおいたんだろう。自分らで仕掛けておいた上、なくなったものを探す文乃に嘲笑を浴びせるエリサたち。最近、二日に一度は目にする光景だった。


「今の、マジで邪魔だったんですけど」


 自分の席について開口一番、そう言った。窓側の前から四番目、少し気に入っているこの席は一番仲のいい谷本美晴と隣同士で、美晴に市井風花、川崎愛結、島部睦、いつものメンバーが既に輪を作っている。二年生になってから、教室でも吹奏楽部でも、ずっと一緒に行動してる五人組だ。


 ちなみに美晴と席が隣同士なのは偶然じゃなくて、席替えの時のくじ引きで、ちょっとズルをしたから。


部活では同じクラリネットのパートで、二年になったらクラスまで一緒になっちゃった美晴とは、学校生活で共有した時間が一番長い。もう、親友って言っていいかもしれない。それぐらい美晴はあたしに近いし、あたしは美晴に近い。


「だよねー。あんなに床にゴミ広げちゃって、ちょっとは人の迷惑考えろっつーの」


 風花がケラケラ笑いながらあたしの言葉を引き取る。風花は部活ではトランペットを担当していて、五人の中で一番のおしゃれ好きで、スカートがあたしや美晴たちより五センチ短い。


目鼻立ちが整っていて可愛いほうだし、ものをハッキリ言う性格が男子にもウケている。時々コクられたりしてるみたいだけど、今は彼氏はいない。