今回の理科の実験のグループは好きな者同士でよくて、そのせいで理科室は騒々しい。実験自体はぶら下げた導線の近くにU字型の磁石を置いて、電流を通した導線が磁石のN極側とS極側どっちに動くか調べるっていうひどく退屈なものだったから、みんな単純な作業はさっさと終わらせちゃって、好きな者同士よもやま話で盛り上がってる。


ほらー、しゃべってばっかいない。実験終わった班はさっさと、レポート書くう」


 あまりのうるささにしびれを切らしたように、いつもは着ない白衣でびしっと決めた理科の溝口先生が言う。レポート用紙は黒板に一番近い実験台に38人分まとめて置いてあって、グループごとに取りに行く。うちのグループはまだレポート用紙を取ってきてないからわたしが立ち上がると、ありがと希重! と郁子が顎の前で手を合わせた。


 レポート用紙がのっかってる実験台に文乃が座っていて、ぎょっとした。教室の中ではいつもそうしているように、膝の上で手のひらを揃え伏し目がちでじっとしている。息もしてないんじゃないかと疑うほど全然動かなくて、まるで主を失った操り人形みたいだと思ってしまった。文乃の向かい側には所在なさげに教科書をめくってる犬飼亜沙実さん。近づいたわたしに気付くとはっと顔を上げ、媚びるような表情になる。


「レポート? 取ってあげる」

「あ、ありがと」


 上ずった声でお礼を言いながら、反射的に媚びた目から逃げていた。


 犬飼さんは最近、市井風香さんや谷本美晴さんのグループから離れて、もっぱら一人でいる。なんで市井さんたちと仲良くなくなっちゃったのかは知らないだけど、とにかく最近の犬飼さんはいじめられていないだけで、文乃とよく似たポジションにいる。一人ぼっちの犬飼さんは一人で行動している子を見るとすかさず話しかけてきて、そのせいで近頃クラスの女子の間で煙たがられていた。


「はい、どうぞ」


 気持ち悪いぐらいの笑顔でレポート用紙を手渡す犬飼さん。もう一度ありがと、と短く言ってその場を立ち去ろうとするけれど、矢継ぎ早に次の言葉をかけられる。


「ねぇねぇ、そういえばあの犯人、まだ見つかってないの? ほら、体操着とかの」