普通であること。普通でいること。それはとてもややこしい問題だ。


 今のところ、わたしは本当にごくごく普通の、平均的な中二の女の子でいる。身長一五二センチ、体重三八キロのチビ。太ってはいないけど、胸も全然ない。二次性徴が遅くて、中一の二月まで生理が来なかった。


髪形は中学に入った時からずっと、肩の上で切りそろえたショートボブにしている。部活はテニス部。運動神経はあんまり良くないし部活に打ち込む熱血少女じゃないけど、上原郁子や仲のいい子たちがいるから、まぁ楽しく続けられてる。成績は中の上の下ってとこ。すごく微妙。


好きな科目は国語と英語で、苦手科目は数学。理科は第二分野だけ好き。おしゃれはそこそこ興味あって、雑誌は森潮美や関根美織から借りたのを時々読んでるし、制服のスカートだって二年生になってからは他の子と同じように、腰のところで一回折っている。でも化粧はまだしたことない。


好きな人は、今はいない。一年の頃はテニス部の先輩が好きだったけどその人には彼女がいて、付き合いたいなんて分相応な野心は抱けなかったし、先輩が卒業しちゃって会えなくなってからは、なんとなく気持ちが冷めてしまった。まだ中学生なんだから、きっと彼氏なんて焦って作るものじゃない。高校生になったらちょっとは頑張るかもしれないけど。


 これといった取り柄もない代わりに、誰かに知られたらたちまち噂にされてしまうような家の事情(親がホステスさんだとか、ひまわり組の河野くんみたいな知的障がいの人が家族にいるとか)もないし、性格だっておとなし過ぎると時々通信簿に書かれるけれど、ちゃんと空気は読めるしみんなの間でうまくやっていける。


中学生は、他のみんなと違う、ということに病的なまでに敏感だ。変わってることを言ったりやったりすればいじめられるのはもちろん、顔がかわいいとか家がお金持ちだとかいう美点までやっかみの対象になり、いじめの原因になることもある。


普通でいることにほっとしてる一方で、普通過ぎる自分はちょっと悲しい。自分が何の色もにおいもついてない、ただの空気みたいで。たとえば、部活に打ち込んで大会があった後の朝礼で表彰される郁子や美織や潮美。たとえば、高校生みたいに着崩した制服で学校に来て休み時間は大声ではしゃいで目立つ、「いい」グループの人たち。


彼女ら、彼らには色もにおいもついているし、なおかついじめられたりハブかれたりしないで、集団の中で足並みそろえてやっていける。時々、そういう人たちがちょっとだけ羨ましくなる。