「殺人……未遂」

 まがまがしい言葉が飛び出してきてつい繰り返してしまう。お母さんは両手でわたしの手をきゅっと握って、深く頷いた。もう目は潤んでいなかった。

「エリサ……これから、どう、なるの」

 おそるおそる聞いた。あんまり長くいじめられてきていじめられることが当たり前になってしまって、いじめる側だけじゃなくてわたし自身がいじめを軽く見てしまっていた。

 犯罪。殺人未遂。

 わたしのされたことをちゃんとした言葉で表すとそうなるんだ。

「あんた次第で、訴えられる。そしたら捕まえることもできる」

「捕まえるって……」

「十四歳以上だもの、ちゃんと法の裁きを受けなきゃ。といっても、せいぜい少年院だろうけどね。ほんとに腹が立つわ、少年法なんてふざけてる……でも、何もしないよりはマシ。お母さんどうしても許せないのよ、エリサって子のこと」

 さんざん怒られてきたけど、今お母さんが怒ってるのはわたしじゃなくてエリサだった。

 なのに、自分が怒られてるような気がする。

 なんたろうこの、胸の底でモヤモヤしているもの。

 ここ数日何度も意識の表面に浮かんできてチクチク罪悪感を刺激した河野の笑顔が、また瞼の裏でチラついていた。

「証拠は十分よ、何人もあんたが突き落とされたところを見ているし、いじめがあったって、希重ちゃんや上原さんが証言してくれるっていうから。がんばろう、文乃。これからは一緒に戦うのよ。いろんな人が文乃の味方だからね」

 お母さんはやっぱり強かった。ただ泣いてるだけじゃなくて、起こった現実を受け止め、前を見ている。転んでもただじゃ起きない、やられっぱなしじゃ済まさない。いつもこの人の言葉に傷つけられてきたけれど、今日はお母さんが頼もしい。

 でもわたしは素直に頷けない。たしかにエリサは最低だ……けど。