「お母さん最悪ね……毎日顔を合わせて一緒に暮らして、なのに子どもがいじめに遭ってることにも気づかないなんて……相当ひどいことされてたんでしょう? 希重ちゃんがみんな話してくれたわ……」

 鉄の女の強靭なオーラなんてどこにもない、肩を縮めて泣くお母さんはひとまわり体が小さくなってしまったようだった。これは本当にお母さんなのかと疑いそうになる。この人の体から生れ落ちてからの十四年来の付き合いで、初めて見るお母さんの姿だった。

 そうか、お母さんは全部知っちゃったんだ。知ってて泣いてるんだ。

「文乃、どうしていじめられてるならひと言、お母さんに相談してくれなかったの……?

 ううん、違うわね……それもお母さんが悪いのよね……いつも成績のことやら何やらで叱ってばっかりで、優しい言葉なんてかけなくて……そんなお母さんじゃ、頼りにならないって思うわよね……相談なんてしたくないわよね……」

「どう、して」

 しゃべろうとするけど、口がなかなかうまく回らない。これもしばらく意識が消えてたからだろうか。希重が身を乗り出し、お母さんが次の言葉を待ちわびるようにわたしの顔を見つめる。希重に負けないほど、打ちひしがれた真っ赤に染まった目。

「どうして……わたし、ほんと、ダメな子で……勉強、家のことも、なんもできなくて……お母さんの言うとおりに、ちっとも、ならない……泣いてもらえない、子だよ、わたし」

「文乃」

 お母さんの声が上ずる。天井を向いて嗚咽をこらえた後、お母さんは再びわたしを見つめる。涙で盛り上がった瞳……

あぁ、これはやっぱりお母さんだ。強くて厳しくて、わたしのことなんてなんもわかってくれないと思ってた。いじめられているのを相談する気にもなれなかった。でも、きつく当たるお母さんの内側にはちゃんと優しいお母さんがいた。

 お母さんは自分のことばっかりでわたしのことをよく知ろうとしてなかったかもしれない。でもそれはわたしも同じだった。どうせお母さんなんか、どうせ愛されてないんだからと、自ら心を閉ざしてた。