ほんとだ、ウンコ女のだー。ウンコ臭が移ってるー。くっせー」

 小松崎が鼻をつまみ、他の三人も笑いながらほんとだくせーと鼻をつまむ。

「男ってほんとバカでガキ。いつまでもウンコウンコって、小学生じゃないんだからさあ」

そう言いながらも明菜は小松崎たちの言動がすっかりツボに入ったらしくケラケラ笑ってて、小松崎はおいそこ聞こえてるぞーと笑顔のまま声だけ怒らせた。はしゃぎながらもみんなの目は、教室の片隅で何かを必死で守るように座っているエリサを、チラチラ窺っている。

やがて始まるキャッチボール。ボール代わりになった体操着袋が教室を舞う。エリサのきれいなピンク色の唇はぐっと真一文字に引き結ばれていて、睫毛の長い目は今にもこぼれそうな涙をなんとか留めていた。いつかわたしにしたことをそのまま、今は自分にやられているエリサ。かつての美少女も今は台無し。

小学校の頃からいじめられ続けたわたしと違ってずっと人気者でチヤホヤされてて、ちょっと前までみんなの輪の真ん中にいたんだ、高いプライドは簡単に捨てられないだろうから屈辱もひとしおのはず。

体操着袋が茶髪の後頭部を直撃する。ぼすっ、と音がしてエリサが痛そうに頭を押さえた。勢いからしてわざと当てたんだと思う。

「あー、悪ィ、悪ィ。つい、コントロール狂ったわ。ごめんなウンコ女」

 増岡がまったく悪びれずに言って床に転がった体操着を拾い上げる。エリサの大きな瞳からついに耐えられず涙がひと粒こぼれた。明菜たちはわざとらしすぎる増岡の行動に大ウケだ。教室のあちこちからクスクス笑いと呟きが聞こえる。

「しょうがないよねー。あんだけのことしてたんだもん」
「いくら顔かわいくってもウザすぎんだよー」
「ずっと周防にムカついてたんだけどさあ、明菜とかよく友だちやってるなって不思議だったの。でもやっぱほんとは嫌われてたんだねー」

 グループの外にいる人間は傍観者に徹するだけ。誰一人として止めようとしない。これもエリサの人望のなさが原因、自分が招いたことと言っちゃそれまでだけど。

 エリサに一番ひどいことをされてたわたしなのに、あの子がいじめられてていい気味だとは思えなかった。

 やがて昼休み終了五分前を知らせるチャイムが鳴り、学級委員の上原さんが教卓の前でパンと手をたたく。

「五時間目の音楽は音楽室じゃないんだってー。みんな教科書持って第二視聴覚室に移動してー。一階だよー」

 座ってた人たちが席を立ち、教室の外にいた人も戻ってくる。増岡たちが名残惜しそうにキャッチボールをやめ、わたしも明菜たちにくっついて廊下に出る。明菜グループ(もうエリサグループ、ではない)は時々増岡グループと行動を共にするけれと、この時も昼休みに引き続き、移動中も増岡とかと一緒だった。横並びになってだらだらと廊下を歩く明菜一行の横を他のクラスの人が迷惑顔で通り過ぎていく。