「そういえばさぁ。高橋さんって、河野潤平と仲良かったの? もしかして付き合ってた?」

 桃子がそう言って、このタイミングでまさか自分に話題が回ってくるとは思わないからちょっと驚いた。桃子はわたしの目を直視せず、つっかえつっかえ続ける。

「あ、いや、そうだよね、まさか違うよねぇ……いくらなんでも。あんな人なんかとさぁ。実はさ、前から噂、あったんだよね。高橋さんと河野潤平が仲良いらしいって。うちらもそんな、信じてないんだけど……」

 仮にも仲良しグループの一員であるわたしに一応気を遣っているのか、言葉を選んでいるようだ。そのくせその目にはらんらんと好奇心が輝いていて、わたしが河野と付き合っていたという衝撃的告白を期待しているように見える。

 そりゃたしかに、わたしは河野の不在にショックを受けている。希重というたった一人の友だちを失って以来の感情だった。誰かがいない、ただそれだけでわっと泣き出したくなるような気持ち。でも希重の時とは少し違う。

 一人の男の子として河野を意識してたわけじゃない。河野がいなくなったことそのもの、河野に会えないという現実を悲しんでるんじゃなくて、最後にあいつに会ったときのあの純粋な瞳が無邪気な笑顔が、わたしに喜ばれて嬉しいのだという心からの言葉が、そういうものがいつまでもわたしの一番深いところに居座って、ふとした何かのはずみで意識の表面に浮き上がって、消えないんだ。

「仲は良かったよ、付き合ってはいないけど。うちの親と河野の親が仲良くて、河野の親がうちの親に頼んだんだよね。うちの子と仲良くしてやって、て」

「あー、じゃあつまり、好きで仲良くしてたわけじゃないんだ?」

 一瞬頷くことをためらったけど、すぐに首を縦に振る。あーなるほどじゃあしょうがないよねーと桃子は納得した顔。これじゃあいじめられっ子と仲が良いんだと思われたくなくてわたしと接点のない振りをする希重と同じだ。体の奥の河野の記憶があるあたりが、チクリと疼く。