悲鳴の狭間でごめんなさい、ごめんなさと河野は繰り返す。それでもわたしは河野を蹴り続ける。痛みにのた打ち回り這いつくばって逃げようとする河野を追いかけ、既にくたくたになった足に力を込めた。

河野は泣いていたけれど涙と血でぐちゃぐちゃになった顔はどこか恍惚としていて、自分が取り返しのつかないことをしてしまったんだと気付く。わたしは河野の心の大事な部分を歪めてしまった。自分を大切にするための間違ったやり方を教えてしまった。

 でもわたしは今にも泣き出しそうなこの気持ちのままに行動する権利なんてないし、今さら河野に優しくしたって何にもならない。逃げ惑う河野をボコボコにする作業は、逃げるほうも追いかけるほうもへとへとになるまでたっぷり十分は続いた。それが終わると壁にもたれて血だらけではあはあ喘いでいる河野をほっぽいて、何も言わずに帰った。

 それが河野に会った最後になった。