「そんなこと」

「そんなこと、あるでしょ。あんたの顔見てりゃあわかんだよ」

 平坦な声がだんだんきつくなっていく。どうしよう、怖い。狂ったエリサにトイレでぶつけられたのとはまた別の種類の、冷たく静かで激しい怒りに気圧される。

「いい気になんなよ。あんたなんか誰もほんとの友だちだって思ってない。エリサをいじめるのに都合がいいから仲良くしてやってるだけなんだからね」

 知ってる、もちろんそんなこと知ってる。知ってるけど、なんでわざわざそうやって言葉にするの? 積み上げられたバレーボールが揺れ、足もとに二人の体とずっしり重い鉄籠が作る双頭の恐竜みたいな形の影が落ちている。鞠子は怒りを込めた声で淡々と続ける。

「あんたと一緒にいてよーくわかった。なんであんたがいじめられるのか。そりゃ、しょうがないわ。一緒にいるだけでマジいらつくんだもん。あんたの存在自体がいじめられ体質なんだよ」

「……」

「明菜たちが文乃をグループに入れるって言い出してあたしだけ反対するわけにもいかないからしょうがなくあんたといるけど、ほんとはあんたなんかと仲良くしたくないの、わかる? 勘違いしないでくんない? グループに入れたからって、友だちできたからって、調子乗んないで」

「調子乗ってなんか」

「いるでしょ」

 そこで初めて鞠子がこっちを見て、ぎろりと音がしそうな視線に慌てて俯く。いつのまにかゴミ捨て場まで来ていて、鞠子が急に手を離した。ズシンと音を立ててボールの山が地面に沈み、わたしの足が籠と地面の間に挟まれそうになった。間一髪で足を引く。鞠子がさっと踵を返し早足で体育倉庫に戻っていった。

 その後は何事もなかったようにさっきまでと同じ作業が続いた。相変わらず鞠子はわたしのことなんて見えてないみたいで、こっちも同じように振る舞った。様子を見に来た吉田先生は「おぉ、なんだ、先生の予想以上に進んでるんじゃないか」と本来罰でやってるはずのことをなぜか褒めてくれた。会話がない分、作業効率だけはいい。