河野の前でいつも暴言吐いてるからか、わたしの口からは冷たく尖ったナイフみたいな言葉が次々とためらいなく飛び出す。クソだの偽善者だの言われ慣れてないんだろう、お嬢様のごとくみんなに守られ愛され育ってきたため温室のお花のように打たれ弱い希重はあっさり涙ぐんだ。背を向けると、もう希重は呼び止めない。

 教室に向かって早足で歩きながら胸が疼くのを感じる。ぎしぎし。ぎしぎし。男子たちが何事が叫びながら駆けていく。廊下の壁にもたれて初々しいカップルがおしゃべりしている。ぎしぎし。ぎしぎし。明菜たちに似た派手な女子が校内では使用禁止なはずのケータイを耳に当てている。ぎしぎし。ぎしぎし……

 なんで。なんでわたしの胸が疼かなきゃいけないの。まさか、まさかわたしはあんな裏切り者の偽善者のこと、世界一大嫌いな憎い希重のこと、まだほんのちょっと友だちだって思ってるんだろうか。そんなことないないないないないないない。